72.あしらいも嗜みのひとつ

 祝賀会は民族衣装で参加したリンカとナイジェル、どちらも国の代表として立派に役割を果たした。今後留学することもあり、魔族に対して好意的な王族と見做されたようだ。


 魔族は大きく分けても5つの種族がある。そこから細分化され、最終的には100を超える一族が集まっていた。それゆえ、他種族との混血は珍しくない。隣の村から嫁をとったら、相手の種族が違うのも日常だった。


 混血に抵抗がないなら、留学する王族は格好の結婚相手と考える。貴族にとって、他国の王族との繋がりは利用価値が高かった。皇帝であるエリュを狙う令息を持つ親はともかく、それ以外の貴族が二人に群がる。


 ナイジェルは非力な人間だが、人間の国々の中では一際大きな国家だ。貿易や今後の影響力を考えれば、捕まえておきたい。何より、エリュと結婚されたら困る。そう考える貴族も多かった。ならば、今のうちに誰か令嬢を充てがってしまえと考える。


 わかりやすいなぁ、玉座に座って肘を突くシェンは、助けるべきか考えた。王族ならば自分で対応できる能力を持っているはず。国外に出すならなおさらだ。お手並み拝見と行こう。


 隣のエリュは、貰った飴に夢中だった。綺麗な蝶々の飴をベリアルが持ってきたのだ。食べるのが惜しいと眺めるエリュに、また買ってくるからと食べるよう勧めるベリアルが苦笑いする。ようやくエリュがぺろりと舐めた。美味しかったようで、嬉しそうに羽を齧り取った。


 父アドラメレクより、母フルーレティの大雑把さが出てる。勿体無かったけど、また買ってもらえると聞いて齧るんだもん。フルーレティを思い出すな。長い眠りの中で目覚めた僅かな時間、あの二人と出会った。今思えば、あのまま起きてしまえば良かったね。そうしたら君達が幼い娘を残して死ぬこともなかった。


 後悔が胸を満たすが、ひとつ深呼吸して散らした。戻らない時間を嘆いても意味はない。僕はエリュを助けて名君にすると決めたんだから。罪滅ぼしは、それで我慢してもらうとしよう。


「婚約者はすでにおりますので」


 王族モードでナイジェルがあしらう。実際に婚約者がいるかどうか聞いていないけど、いてもおかしくないか。笑顔で貴族を追い払うナイジェルに心配はいらなさそうだ。


 リンカのいる反対側に目をやれば、見目麗しい種族がこぞって口説きに掛かっていた。こちらの方が心配か。そう判断したシェンだが、リンカは微笑んで一刀両断にした。


「こう見えて、もう548歳だが……構わないのか?」


 妖精族は長寿だ。下手な魔族より長生きする。その王族となれば、外見が子どもでもとんでもない年齢の可能性があった。実際は嘘なのだが、言い寄った令息達は顔を引き攣らせて数歩下がる。じわじわと包囲網が解けていくのを見ながら、シェンにウィンクする余裕があった。


 嘘も方便、いつかエリュに見習わせたいな。くすくす笑いながら、頼り甲斐のある友人達にシェンは手を振った。

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