71.建国祭はキラキラした祝福の雨を

 朝早くから準備をして、お揃いの衣装で部屋から出る。昨年と同じ、壇上での挨拶が待っているのだ。エリュはその後のお出かけに意識が向いていた。


「挨拶したら、街でお祭り見られるんだよね」


「明日の約束でしょ。今日は挨拶の後で祝賀会だから」


 昨年と同じ順番と言い聞かせる。ただ昨年と違うのは、今年はお祭りの初日以外の6日間、外出許可をもぎ取ったこと。自由に外出できるし、もちろん宮殿に残ってもいい。となれば、普段は遊びに行けない街へ繰り出したいのが、健全な子どもの思考だった。


「分かった、今日は我慢する」


「偉いね、エリュ。皇帝陛下のお仕事のひとつだから、ちゃんと出来たらご褒美をあげるよ」


 シェンに撫でられ、嬉しそうにエリュは頬を緩める。そこへリンカが正装で合流した。初日は挨拶と祝賀会で、街に降りられない。そのため、正装が必須だった。リンカは妖精族の民族衣装だ。


「おはよう」


 挨拶を交わしたところへ、ナイジェルが合流する。昨夜一緒に夕食を食べて、食後もゲームをして過ごした。一年で留学へ漕ぎ着けるため、ナイジェルは必死で勉強したらしい。その辺の話を聞いたり、お互いの近状を交換する間に夜は更けた。なかなか眠ろうとしない子ども達は、侍女バーサの脅しでベッドに飛び込んだのだ。


 早く寝ないと、外出許可を取り消しますよ――この一言は、思いのほか効果が高かった。しっかり眠った4人は顔を見合わせて笑う。大急ぎで食事を済ませ、ベリアルの迎えを待った。


 昨年と同じように挨拶の為に手を振り、集まってくれた国民にシェンが祝福を授けた。これは魔力を光の粉に変えて降らせる演出である。眠り過ぎて魔力を蓄えたシェンが考えた苦肉の策だ。魔力不足で弱くなった魔族を、昔のように強くする一環だった。そのついでに、エリュを登場させることを提案したのはベリアルだ。


 エリュが登場する祭りや行事に参加することで、魔力量が増える。魔法が強くなる。そんな噂が広まれば、無力な皇帝陛下ではない。圧倒的な支持率を誇る皇帝となれば、彼女を害する者は減るはずだった。ベリアルの策は搦手だが、当事者が協力すれば有効な手だ。シェンが反対する理由はなかった。


「きらきら、綺麗だね! すごい」


「エリュ専用だから、次は色を変えてみようか」


「赤いのがいい」


 大喜びのエリュは、光に向かって手を伸ばす。遠くから見る国民にとって、その姿は彼女が光を降らせているように見えた。ましてや光を浴びると、体調が良くなる。次第に魔力も大きくなるおまけ付きだ。その効果が噂になるのは、まだ少し先の話だった。


「魔族は外見も能力も様々で、見てて楽しい」


「強そうな奴がいっぱいだな」


 リンカとナイジェルの感想は、どちらも単一性の強い種族出身者の驚きに満ちていた。互いを認め、尊重し合う。そんな世界の到来を、シェンが夢見るのに十分な意見だった。

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