16.幼女二人で小さな我が侭を
おやつからのお昼寝を経て、ここで夕飯が入らない事態に遭遇する。子どもには良くあることだが、ベリアルは大きな溜め息を吐いた。
「エリュ様、食べられませんか?」
「うん、お腹いっぱい」
まだ膨らんだ腹を撫でる仕草は可愛いが、状況はまったくもって可愛くない。それは、隣で目を輝かせて誤魔化そうとする蛇神も同様だった。
「シェン様も?」
「うん、僕もお腹いっぱい」
そんなわけないでしょう! あの巨体で、その程度のおやつなんて一飲みのはず! そう怒鳴りたいが、ぐっと我慢した。ここで怒鳴ったらエリュが気にする。何よりシェンはあざといことを承知で、エリュの真似をしたのだ。これは何かしらの意図があるに違いない。
深読みするベリアルをよそに、シェンは見えないように笑った。裏なんてあるわけがない。ただ、エリュと同じように振る舞っただけのこと。彼女の味方をして、一緒に叱られるのも一興だった。
叱るのを諦め、ベリアルは額を押さえた。これは明日の朝食をしっかり用意させるしかない。これからは、何があろうとおやつの量を制限することを決めた。シェンに任せたら、いい加減なことをするに違いない。魔族を守護する蛇神の威厳は、この瞬間地に落ちた。
「仕方ありません、ではお風呂に入って寝てもいいですよ」
「やだ」
「やだぁ」
我が侭を振り翳す幼女達は嬉しそうに「ねぇ」とお互いに笑い合った。嫌な予感がするベリアルは逃げようとするが遅く、服の裾を握られた。
「本読んで」
「僕も」
二人で畳み掛けるが、つい先日「下手」と言われたばかりのベリアルが頷くわけはない。何とか逃れようと、同僚を贄に差し出した。
「リリンの方がいいですよ」
顔を見合わせて少し相談して、子ども達は素直に頷いた。
「じゃあ、リリンと交代」
「ベリアルはまた明日ね」
無事離してもらえたことに嬉しさ半分、寂しさ半分で退室した。リリンを呼びつけるついでに、おもちゃの女教師を譲ってもらおう。それはとてもいい考えに思えて、ベリアルは足早に廊下を横切った。
「ベル、泣いてない?」
「平気だよ。ベリアルは強いからね」
「そっか」
一緒にお風呂へ向かい、広い浴槽へ並んで入る。きっと出る頃にはリリンが来ているだろう。侍女達に頭を洗ってもらい、体も泡立てた石鹸で綺麗にした。同じ匂いがすると笑い、手を繋いで風呂を出る。普段なら侍女に拭いてもらうのだが、今日からシェンの魔法で乾かす。
温風を浴びて、エリュは擽ったいとはしゃいだ。部屋中追いかけ回して乾かす。気づけば、すっぽんぽんで走るエリュの後ろをシェンが、その後ろをタオルを持った侍女が追いかける展開だった。
「お待ちください、風邪を召されてしまいます」
必死の侍女が気の毒になり、シェンが止まる。エリュも慌てて駆け戻った。と、素早く服を上から被される。両手を抜いてすぽんとワンピースを着たら、ベッドの上に並べられた。
「絵本はどうなさいますか?」
「リリンがくる」
「リリンが読むって」
口を揃えた幼女達に挨拶し、侍女は部屋を辞した。外へ出ると、扉の隙間から覗いていたリリンが「可愛すぎる」と悶えていたが、見ないフリをするのが宮殿の慣わし。女将軍に一礼して立ち去った。
読んでもらった絵本は、勇者と戦う魔王のシーンで臨場感を出しすぎ、余りの迫力にエリュがシーツに潜るほど。声色まで変えて読んだリリンは満足げだった。
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