14.プリンが押し潰される盛り付け

 不器用ながら一生懸命盛り付けたと思われるプリンは、クリームで半分以上隠れていた。その上に赤いチェリーやイチゴ、黄色いマンゴー、蜜柑。緑のキウイと葡萄が並ぶ。たくさん盛ろうと欲張った結果、プリンが崩れるほどの重さがかかったらしい。


「私の好きな果物いっぱい! どうぞ」


「ありがとう、さすがエリュだね。とても綺麗で可愛いよ」


 隣に座ったシェンの前に押し出されたプリンの飾りが、ぐらりと傾く。それをさり気なく魔力で支えた。倒れたら泣いてしまうだろうね。心配だから、エリュの前にあるパフェ並みの高さを誇る果物タワーも支えておく。


「いつもはこんなにもらえないの」


 このくらい、半分の高さを手で示す。エリュは先ほどの悲しみをすっ飛ばしたようで、明るく笑った。普段からあのような扱いをされていたなら、慣れてしまったのかも知れない。こんな悲しいことに慣れる必要はなかった。まだ未熟な幼子が歪まぬよう育てるのは、周囲の保護者の大切な役目だ。


「いい子だったからじゃないかな」


「でも、先生に怒られた」


 叱ると怒るの違いも分からない年齢で、的確に言い当てたエリュの頭を撫でる。シェンの手ににこりと笑顔がでた。向かいに座るベリアルの心配そうな顔で、クリームの間にあるアイスに気づく。


「エリュ、食べないと溶けちゃう」


「どれ?」


「これだよ、ほら」


 チョコレート色のアイスを示すと、慌ててスプーンで口に運ぶ。柔らかくなったアイスは垂れて、服の胸元を汚した。もちろんエリュの手やスプーンも同様だ。それを微笑ましく見守りながら、こっそりと浄化して消し去った。何度繰り返すことになっても、それでエリュが笑えるならいい。


「これ、美味しいね。ベルもあーん」


 分けようとする幼子に断る言葉が見つからず、大人しく口を開けたベリアルがクリームとイチゴを頬張る。予想より多かったクリームは甘く、酸っぱすぎるイチゴに苦戦しながら飲み込む姿は、シェンの苦笑を誘った。


「シェン様……」


「うん、後で教えるよ。リリンはどのくらいで戻るかな?」


 小声で交わした声に気付かぬエリュは、ご機嫌で両足を揺らす。お行儀が悪いと叱られるけれど、嬉しくて揺れる子犬の尻尾と同じ。可愛らしいので見逃した。


 虹色がかった神秘的な銀髪や象牙色の肌は、クリームやアイスでベタベタに汚れている。それをベリアルが甲斐甲斐しく拭いながら、機嫌よく食べる姿を見守った。隣で垂らさず器用に食べるシェンが、ようやく見えてきたプリンに到達する。


 プリンの飾りを頼んだのに、メインの数倍の盛り付けが施されたおやつは、子どもの小さな胃には多過ぎた。それでもお菓子や甘いものは別腹とばかりに流し込んでいく。エリュも、その小柄な体のどこに入ったのかと心配になる程、勢いよく頬張った。


「ベリアル、明日のおやつは絶対にプリンじゃないのにして。あとクリーム系もやだ」


 ぼそっとシェンが出した要望は聞き届けられるが、それは明日のこと。今日はまだ終わっていない。


「お風呂して一緒に寝よう! もうお勉強は終わり。僕は勇者を倒した先先代魔王の話が聞きたい!!」


 シェンが子どもらしく叫ぶ。


「私も! 一緒がいい」


「分かりました。準備を……え? 話を読みたいのではなく、聞きたい?」


「うん。ベリアルが読んでよ」


 悪いことを思い付いた幼女シェンの顔に、ベリアルはいろいろな思いを飲み込んで承諾を返した。ちなみに、淡々と抑揚のないベリアルの読み聞かせは、幼女二人に不評だったとか。

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