第37話 プリシラの健やかな成長


 ――バリン!


「…………え」


 プリシラの拳が、俺のバリアを貫く。


「あと……すこ……し……っ!」


 そこから更にもう一撃叩き込もうとするプリシラだったが、体力が尽きてしまったのかヘロヘロとその場に座り込んだ。


「うぅ……やっぱり無理~っ!」


 あ、あぶねー……! プリシラにもう少し体力があったらバリアを破られているところだったぞ。


「……大丈夫?」

「はぁ、はぁ…………うん、平気。やっぱりお兄さまはすごいね~」

「プリシラも良く頑張ってたよ。もう少しで壊されちゃいそうだったし」

「お兄さま、ほめすぎ……えへへ~……!」


 おまけに、プリシラの強さを見誤っていた。俺という天才の妹なのだから、才能にあふれていて当然という簡単な事実にもっと早く気づくべきだったぜ……!


「うふふ、気を抜いたら追い越されてしまうかもしれないわね、アランちゃん」


 すると、いつの間にか俺の背後に立っていたメリア先生が言った。


 どうやら、今の戦い? を見ていたらしい。


「はい。僕もまだまだ修行が足りていないみたいですね」

「どちらかといえばプリシラちゃんがおかしいのだけれど……」


 苦笑いするメリア先生。


 確かにそれもあるが、たった一年でここまで追いつかれてしまうのは訓練不足の面が大きいだろう。


 プリシラを野蛮な大会に出場させないためにも、気を引き締めなければ……!


「――まあいいわ。それじゃあ、今日も授業を始めましょうか。……、やれることはやっておかないとね」

「……よろしくお願いします」


 メリア先生の言うように、俺は来年学園へ入学することになっている。


 名前は確か……『ファネア魔法学園』だったか? 原作には登場しない名称なので覚えづらい。


 学園がある場所は帝国の北部にある魔術都市と呼ばれる場所で、ここから馬車に乗って向かう場合は十日ほどかかる。


 つまり向こうの寮で生活する必要があるということだな。プリシラが寂しがるので、いつでも帰れるように転移魔法を開発せねばならない。早急に。


 ――ファネア魔法学園で学ぶことができるのは魔力を扱う技術全般で、優秀な騎士や魔術師等を輩出してきたらしい。聞いた話によると、お父さまや先生達もそこの卒業生のようだ。


 本来は十五歳から十八歳になるまでの期間で学ぶ三年制の学校だが、俺やホロウズ家の双子のような規格外の生徒を受け入れる為の、特別クラスとやらが来年度から設立されるらしい。


 魔獣が暴走する事件を解決した際に皇帝から与えられた報酬が、特別クラスへの入学資格なのだ。

 

 正直、各分野の優秀な家庭教師三人が付きっきりで教えてくれる現在の環境の方が良い気もするが……先生達は「絶対に入学した方がいい」と言うので、お試しで入ることに決めた。


 まあ、退屈だったら辞めればいいだけだし、それほど問題はないだろう。


「……そんなに悲しそうな顔をしないでちょうだい。私との別れが辛いのはよく分かるわ……」

「特に辛くはありません」

「もぉ、素直じゃないわねえ」


 よくよく考えてみれば、この痴女としばらく距離を置けるのは、俺の教育上大変よろしいかもしれない。


「でも安心して。実は私達、学園に特別講師として呼ばれているの!」

「………………」


 入学するメリット潰れたわ。


「私も……お兄さまと同じ学園に行きたい!」


 俺が絶望していると、プリシラが突然そんなことを言い出した。


「あのねお兄さま、私が精霊祭の大会で優勝すれば……同じクラスに入学させてもらえると思うの。だからやっぱり……出ちゃダメ……?」

「うっ……!」


 プリシラに上目遣いで言われた俺の心は、大きく揺らいだ。


「で、でも……!」


 しかし、俺には「プリシラの健やかな成長を見守る同盟」で結んだドロシアとの誓いが……!


「あのね、ドロシーはこうやってお願いしたらすぐに許してくれたよ? 後はお兄さまだけなの!」


 おいふざけるな。どういうことだドロシア。


「そ、そうだね……一瞬とはいえ、精霊盾エレメンタルシールドを破れたんだから……いいよ」

「やった~! お兄さま大好き!」


 こうして、最後の砦である俺はあっさりと陥落するのだった。


「…………アランちゃんの妹になりたい人生だったわ」

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