第36話 二年後


 メリア先生とダリア先生に極限までしごかれた後、サリア先生に極限まで癒されるという、痴女と聖女に挟まれる日々が始まってから、およそ二年の歳月が経過した。


 ――つまり、俺は十二歳になったということだ。


 「力比べの儀」には、俺が強すぎたせいで出場できなくなっている。殿堂入りというやつだな。


 一年前の大会で優勝したのは、男子の部が魔力操作を覚えたレスター、女子の部が更なる訓練を積んだドロシアだった。ホロウズ家が揃って優勝してしまったので、教団に目を付けられた可能性が高い。二人の身辺には警戒しておいた方が良さそうだ。


 ちなみに、僅差でドロシアに負けてしまったグレンダは、案の定泣いていた。しかし、負けを受け入れるようになったので、年々成長しているといえる。


 今のところ全員、闇落ちの兆候はなしだ。


 ギルバート? そんな奴のことは知らんな!


 ……とまあ、そんな感じで俺は平和な日々を過ごしていた。


「お兄さまっ! 今日も勝負して!」


 俺がいつものように庭で訓練をしていると、プリシラが駆け寄ってきて言う。


「またするの……?」

「お兄さまが認めてくれるまでやるっ!」


 最近は、すっかり元気になったプリシラが大会に出たがるので困っているのだ。


 実は一年ほど前から少しだけ俺が魔術や剣術を教えているから、出場すれば良い所まで勝ち進むとは思うが……俺は妹がボロボロに傷つくところなんか見たくないぞ!


 それに、この件に関してはドロシアも俺の味方だ。「プリシラの健やかな成長を見守る同盟」の一員として、野蛮な儀式に参加させるわけにはいかない!


 ……とはいえ、本人の想いはしっかりと聞いておくべきだよな。


「どうしてそこまでして大会に出たいの?」


 俺はプリシラに問いかける。


「私、お兄さまを護れるくらい強くなるって決めたのっ!」


 俺を護る必要はそれほどないと思うが……。


「だから、まずは大会に出て優勝しないとっ!」


 向上心がすごい。

 

「それで、もしお兄さまに勝てたら……」


 言いかけて、顔を赤らめるプリシラ。


「僕に勝てたら?」

「そ、それはひみつっ!」

「…………」


 一体何を要求されるんだ。少し怖いぞ……!


「……お兄さまだって強い人が好きなんでしょ? ドロシーとか先生たちみたいに」


 俺が内心怯えていると、プリシラは独り言を呟くように言った。


「好き……? うん、まあ(試合をするのは)好きだけど……」

「やっぱりそうなんだっ! 弱い子は嫌いなんだ〜っ!」


 目を潤ませるプリシラ。


「別に弱いからって嫌ったりはしないよ。……それに、今はそういう話をしてるんじゃないでしょ?

「そういう話だもんっ! だからお兄さまと戦うの〜っ!」

「…………」


 悲しいことに、俺ではプリシラの気持ちを理解してやることが出来ない。


 前は病弱で華奢で繊細だったのに、どうして強さを追い求める戦闘民族に成長してしまったんだ……!


 ……と思ったけど、よく考えたら前から全力で突進してくるような妹だったな。


 何も変わっていないようで安心した。


「……分かった。じゃあ、今日も時間内に魔法のバリアを破れたらプリシラの勝ちでいいよ」


 観念した俺は、いつものように相手をしてやることにする。


「うん!」

「――精霊盾エレメンタルシールド


 呪文を詠唱し、周囲にバリアを張り巡らせた。


 精霊盾エレメンタルシールドは、精霊刃エレメンタルブレードと対を成す最強魔法だ。全属性のシールド系統の魔法を掛け合わせることで、ありとあらゆる属性の攻撃を防ぐ最強の魔術障壁を作り出すのである。


 両方とも実用的なレベルにまで鍛え上げたので、これと剣術を組み合わせれば大抵の敵には負けないだろう。


 ……といっても、原作のストーリーがどうなるのか分からない以上、まだまだ油断はできないが。


「――よし。いつでも来ていいよ」

「うおーーーーーーっ!」


 プリシラが叫びながら殴ると、バリアに少しだけヒビが入る。俺は魔力を送り込むことで即座にそれを修復した。


「えいっ! えいっ! えいっ! おりゃーーーーっ!」

「くっ……!」


 正直、最近は本気で相手をしないとバリアを破られてしまいそうだ。メリア先生とダリア先生が二人がかりでやっと無力化できるレベルのバリアなのに……。


「おーーーーーーーっ!」

「なかなか……やるねっ!」


 ……あれ、なんかプリシラ強くなりすぎてね? 気のせい?


「おりゃーーーーっ!」

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