第33話 新しい先生
精霊祭の三日目は何事もなく終了し、俺はいつも通りの平和な日々に戻った。
変化したところといえば、プリシラと一緒に暮らすようになったことくらいだろうか。
最近は、微妙に避けられている気がするので困っている。
今朝も屋敷の廊下で「おはようプリシラ」と挨拶したら、「おっ、おはようお兄さまっ!」とだけ言って高速で走り去ってしまった。
初日は抱きついてくれるくらいデレデレだったのに……悲しい。
プリシラがそうなってしまった原因に関しては、心当たりがありすぎて逆に分からない。やはりベッドに潜り込んだのが決め手だろうか。いくら誤解が解けたとはいえ、その件に関しては一切言い訳が出来ないからな。
結局、プリシラからは嫌われてしまう運命にあるのだと思って諦めよう。適切な距離を保つことが大切だ。
それからは、メリア先生とダリア先生の授業……というより戦闘訓練を受けていたのだが……。
「はぁ…………」
今日はメリア先生の元気がなかった。
「どうしたんだメリア。ため息なんかついて」
隣にいたダリア先生が、不思議そうな顔をしながら問いかける。
「来るのよ……」
げっそりとした顔で答えるメリア先生。
「来るとは?」
「アランちゃんに治癒魔法を教えるために……あいつが……!」
そういえば、精霊祭の後すぐに治癒魔法を教えて欲しいと相談していたな。メリア先生は専門外だから、新しい先生を呼んだんだっけ。
どんな人が来るのだろうか。
「なっ…………!」
ダリア先生が固まっている。
「どっ、どうしてわざわざ……! 他にも居ただろ!」
「だ、だって…………ごにょごにょ……」
メリア先生は、俺に聞こえないよう耳打ちした。
「おい! あいつは自分の息子をどうしたいんだ!」
「私は反対したのよ! でも、プリシラちゃんの病気を今まで診てくれた信用があるとか……一番優秀な人に教わった方が良いとか……ふざけたことばかり言って……」
「くっ……! 奴は息子の貞操に対しても鈍感なのか……っ!」
「や、やめなさい! アランちゃんの前よ」
なんかお父さまの話してる?
「あの、どんな人が来るんですか……?」
流石に心配になってきた俺は、苦虫を噛み潰したような顔をしている二人に問いかけた。
すると、メリア先生がゆっくりと口を開く。
「……サリア」
聞き覚えのある名前だな。
確か、ゲーム中盤で戦うボスに『堕落の聖女サリア』という魔人がいたはずだ。
魔人でありながら普段は心優しい聖女として振る舞い、裏では攫ってきた町の子供や孤児達に悍ましい儀式を行なっていた、気色悪さと胸糞悪さが合わさったボスである。
――しかし、聖女なのだから魔人になる前は本当に良い人だったのでは?
俺のそんな予想は、メリア先生が発した次の一言によって覆されることとなる。
「――フォルテル」
「え……?」
「私たちの……姉よ」
絶対に痴女だ……!
堕落の聖女サリアにそんな裏設定があっただなんて……!
「あの変態にアランちゃんを見てもらうなんて、恐ろしいわ……!」
「………………」
自己紹介かな?
「い、いざとなったら私が守ってやるからなっ! アランくんを変態には近づけさせないっ!」
「………………」
では離れてください、ダリア先生。
「……どうしよう」
痴女が三人に増えるのか……? 安心して眠れなくなってしまうぞ!
俺は頭を抱える。
「アラン様。サリア先生が到着しました」
――その時、俺達の元へやって来たニナがそう告げるのだった。
*
それから、俺はニナに連れられて応接室の前までやって来た。
扉を開けると、そこには純白のローブに身を包んだ金髪の女性が座っている。
「アラン様をお連れしました……サリア先生」
「どうもありがとう、ニナ」
サリア先生は、そう言ってソファーから立ち上がり、俺の方へ近づいてくる。
「あなたが……アランさんですね。もう聞いているかもしれませんが、私の名前はサリア・フォルテル。あなたに授業をしているメリアとダリアの姉です。よろしくお願いしますね」
「よ、よろしくお願いします」
すごいまともだ。ベタベタしてこない!
原作でも初登場の時はこんな感じだったな。裏の顔があるかもしれないので、警戒は解けないが。
「実は、今までプリシラの病気を治療する為に、よく別荘へ通っていましたから……ニナやあなたのお父さまとは、それなりに気心の知れた仲なのです」
それは初耳だ。
「プリシラの病気も、時間をかけてじっくりと治療していけば治ります。ですから、心配しないでくださいね」
「は、はい……」
たぶんもう魔石の力で治りました……とは言いにくいな。
――いや、待てよ。
もしかして原作でプリシラが死ぬのって……この人が魔人化してちゃんとした治療ができなくなったせい……?
となると、この人の魔人化さえ防げば……わざわざ魔石を取り込まなくてもプリシラの病気は治ったってことか?
……俺は無駄な苦労をしたというわけだ。
まあ、魔石のお陰でプリシラは予定よりも早く元気になれたわけだし、良しとしよう。
「……さてと、あまり長々と話し込んでしまうと、アランさんが飽きてしまいますよね。――早速、治癒魔法の授業を始めましょうか」
「お、お願いします」
やっぱりこの人……一番まともなのでは……? 優しいし、ニナも信用してるっぽいし。
「うふふ、いきなり難しいことを教えたりはしませんから、そんなに緊張しないでくださいね」
「はい、分かりました……」
「アランさんなら、きっとすぐに使いこなせるようになります!」
すごく良い人だ。ぼく、このお姉さんがいちばんすき。
――痴女だと思ってすみませんでした。
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