第32話 シナリオ崩壊

【???side】


 アラン・ディンロードがその身に魔石を取り込んだことによって、この世界が本来辿るはずだった「正しい歴史」から大きなズレが生じた。


 その結果、帝国じゅうにばら撒かれていた残りの六つの魔石のうちの一つ――原作における裏ダンジョン『混沌の魔窟』にひっそりと存在していたもの――が、とある魔物によって取り込まれることとなる。


 本来であれば、皇帝の派遣した調査隊によって回収され、ギルバートの手に渡るはずだったものだ。


 その魔石に対して魔物が願ったことは不明だが、結果として得た力は自己の複製……つまり生殖能力だった。


 濃い魔力の霧である「瘴気」から自然に発生し、全てを喰らい尽くした果てに餓死するだけの存在である魔物が、子を成す生物へと進化したのである。


 本来であれば、それだけで直ちに人間の脅威となることはなかったが、濃い瘴気に満ちた魔窟には、ある特徴が存在した。


 外と時間の流れが違うのだ。


 外での一日は魔窟内での百日に、外での一年は魔窟内での百年に相当する。


 人間では瘴気の濃い魔窟に長期滞在することが出来ないのにも関わらず、駆除した魔物は外へ出たら時間の経過によってすぐに復活してしまう。


 魔石の力を得た「魔物の女王」の子孫達は、そうした環境で急速に進化していき、やがて人間と同等の知能を獲得することとなる。


 そうして近い将来、「魔族」と呼ばれる新しい種族が誕生するのだ。


 *


【元老院side】


 一方、帝国議会には元老院の面々が集まっていた。


 彼らは皆、大きな円卓に神妙な面持ちで座っている。


 その中でも一際ひときわ威厳のある者――マガルム帝国の皇帝は、無表情で沈黙していた。


「それでは、北部の【浄化計画】には【ガーガンドラの杖】を組み込む――ということでよろしいですな」


 とある議員の言葉に、反対する者はいない。

 

「では……次の議題に移ります。現在行われている【フェルネダ・フェスト】の件ですが……【アルマガ=グレンニールの骸核がいかく】に適合する【グレソニール】が、五人ほど見つかりました」


 刹那、ざわつく元老院の面々。


「あ、ありえない……!」

「そんなことが……!」

「グレンニールにグレソニールするだって……!?」


 にわかには信じがたいといった様子である。


「それでは、このタイミングで【ヴェルガナイトの箱庭計画】を……?」


 議員の一人が質問した。


「しかしあの【箱庭】では現在、【大聖霊ニュムぺテラ】によって【骸核】を【浄化クォーサー】する実験が行われているだろう」


「――そこへ更なる不穏分子を呼び込むとなれば……」


「【モンパディエ聖教会】の連中は反発するだろうな」


「やれやれ【モンパディエ聖教会】……ですか……」


 話し合いは平行線を辿る。


「この件に関して、皇帝陛下はどうお考えですかな?」


 その時、誰かが言った。


「お前達」


 終始無言を貫いていた皇帝は、重々しく口を開く。


「真面目に会議しなさい」


 しゅんとする元老院の面々。


「……それでは、今年度の『特別枠』の話し合いを始めます。様々な審査の結果、特待生として学園に入学できる『特別枠』の候補者は五人いました……」

「五人もいるなんて珍しいですなぁ」

「例年は一人いれば良い方だと言うのに……」


 こうして、真面目な議会が始まるのであった。


「やはり一番は……アラン君ですな」


「言動に少々不可解な点がありますが……その他にこれといった問題はありません」


「彼の言っていた【ハロウィン】やら【アルマガ=グレンニールの骸核がいかく】やら【モンパディエ聖教会】やらの単語は……結局のところ、何の暗号なのでしょうか?」


「精霊祭の内容に不満を持っている様子でしたが……」


「まったく、天才児の考えることは分かりませんなぁ!」


 『力比べの儀』男子の部優勝者であり、全属性魔法を使う少年、アラン・ディンロード。


 特待生候補者である彼の街中での言動は、逐一審査されていたのだ。


「次からは、精霊祭の呼び名を【フェルネダ・フェスト】に変えてみるのはどうでしょう――皇帝?」

「却下だ」

「その方がかっこいいと思いますけどなぁ……」

「ふざけるな」


 ……そしておそらく、このままいくと帝国は魔族によって支配される国になってしまうだろう。

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