第28話 アランの願い
なんやかんやで魔獣脱走事件は解決したので、俺達はそのまま解散することになった。
俺とニナとプリシラは、闘技場を後にして屋敷へと向かう。
「………………はぁ」
その道中、プリシラが小さくため息をついた。……少し元気がなさそうだ。
結局、今日はろくに祭りを見て回ることができなかったからな。きっと落ち込んでいるのだろう。
「大丈夫?」
「う、うん……だ、だいじょうぶ……だよ。お兄さま……」
「お祭り、明日はちゃんと一緒に回ろうね」
「そう……だね。やく、そく……」
そこまで言いかけて、プリシラは不意によろめく。
「プリシラっ!」
俺は慌ててそれを受け止めた。落ち込んでいる、というのは俺の勘違いだったようだ。
「酷い熱……! た、大変ですアラン様! 早く屋敷に戻らないと、プリシラ様が……!」
事態は深刻である。
「ご、ごめんね……二人とも……。私……ちょっと、無理しすぎちゃったみたい……」
なんてことだ!
「謝らなくていいよ。……僕が背負っていくから、もう少し頑張って!」
「お兄さま…………」
おそらく、プリシラの体はもう限界が近いのだろう。原作の設定から考えると、保ってあと数年の命だからな……。
「必ず良くなるって……みんな、言ってくれるけど……やっぱり……無理なのかな……」
珍しく弱音を吐くプリシラ。
「……そんなこと言わないで」
本人も、自分が長くはないことをぼんやりと察しているようだ。
「きっと、すぐに元気になるから」
――しかし、問題はない。何故なら、俺が魔石に願ったのはプリシラの病気を治せる力だからな。
明日には元気にしてやるぞ我が妹よ!
*
その後、プリシラは自室のベッドに寝かされていた。
ニナは看病の為に忙しく走り回っているし、お父さまは一度だけ様子を見に戻って来た後、また呼び出されて仕事へ出てしまったので、部屋には俺とプリシラの二人だけだ。
「お兄さま……あのね、えっと……」
プリシラは先ほどからずっと、ベッドの脇に座る俺の右手を掴んでいる。
「僕はずっとここに居るよ」
「…………うん」
俺の言葉に安心したのか、ゆっくりと目を閉じるプリシラ。
「おやすみ」
「おやすみ……お兄さま……」
それから、すぐに寝息を立て始めた。
――よし、眠ったみたいだな。
それでは早速始めるとするか。
俺は、プリシラの胸の辺りにそっと左手をかざした。実の妹に対していかがわしいことをしようとしているわけではない。魔石によって得た力で病気を治すだけである。
レスターやグレンダの傷を治した時と同じようにやれば、きっと上手くいくはずだ。
「………………っ!」
俺が念じ始めると、次第に苦しそうだったプリシラの呼吸が安定してくる。
どうやら、効果はあるみたいだ。これで良くなってくれるといいんだがな。
「はぁ、はぁ……プリシラ……っ!」
もう一度確認しておくが、俺は実の妹に対していかがわしいことをしようとしているわけではない。
「んっ……おにい……さま……っ!」
「プリシラ……!」
病気の治療を試みているだけだ。
「はぁ……はぁ……!」
思ったより体力を消費するので、呼吸が乱れる。
「お兄さま……こんなことっ、だめ、だよぉ……っ!」
というか、プリシラはさっきから何の夢を見ているんだ? 寝言で俺の名前ばかり呼んでいるが……。
「だめ、なのに……っ」
そうか分かったぞ。きっと、兄妹で仲良く
普段は良い子にしているが、やはりお転婆な奴だ。ダメと言われたらやりたくなるお年頃なのだろう。実に微笑ましい。
「お兄さまぁ……っ!」
元気になったら、沢山悪いことをして仲良くお父さまに叱られよう!
それこそが、この家族に必要なコミュニケーションだったんだ!
「プリシラッ!」
「だめぇっ!」
かくして、俺は意識を失うまで魔石の力を使い続けるのだった。
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