第27話 無事に解決?
「そ、それ、魔石っていうんだ。欲しいなら別にいいけど……気を付けて……」
「あんた、趣味悪いわね~。そんなもの貰ってどうすんのよ。……部屋に飾るのだけはやめておいた方がいいと思うわ!」
「……………………」
まあ、いきなり魔石を貰うとか言ってもそういう反応をされて終わるだけだよな。知ってた。
おまけに、二人はこれが何なのか理解してないわけだし。
「……じゃあ、取り込むよ。僕に何かあったら後はよろしく」
俺は言いながら魔石に近づき、ゆっくりと手をかざす。
「ちょ、ちょっと待ちなさいっ! それって取り込むものなの?! 絶対にヤバいじゃないっ! 考え直し――」
グレンダの言葉は聞き流しておく。
どちらにしろ、この魔石が皇帝の手に渡ったらもっとヤバいことになるんだ。上手く制御できる可能性が高い俺が取り込むべきだろう。
「さてと……」
俺は目を閉じ、頭の中に願いを思い浮かべる。そして、魔力を纏って保護した両手で魔石へと触れてみた。
するとその瞬間。
「――――――ッ!」
全身に膨大な魔力が流れ込んでくる。
「こ、これは…………っ!」
身に覚えのある、不快な感触だった。
「あの……時の……っ!」
――同じだ。
この体に転生した後、一時的に失っていたアランとしての記憶が戻って来た時とまるで同じなのだ。
高熱を出して寝込み、ニナに看病してもらったことは今でもはっきりと覚えている。
あの時と違うところは一つだけ。流れ込んできているのが、記憶ではなく魔力の塊であるという点だ。
「うぐっ……うぅっ!」
他は全て同じ。頭の中がごちゃごちゃになり、強烈な吐き気が襲ってくる。
俺はたまらずその場に屈みこんだ。
「だ、大丈夫アランっ!?」
「ほら! 言わんこっちゃない!」
すると、じっと見ていた二人が俺の元へ駆け寄って来て背中をさすってくれる。
「もうっ! ダメじゃない! ペッてしなさい、ペッて!」
グレンダ、人を犬みたいに扱うんじゃない。食べたわけじゃないからぺッてしても無駄だぞ。
「い……いや、僕はもう大丈夫……」
――心の中で突っ込みを入れていたら、いつのまにか不快な感覚が弱まっていた。
もしかしたら、一度経験していたおかげでそこまで酷くはならなかったのかもしれない。
「まったく、何考えてるのよあんた……」
「今のは魔石っていうもので、言い伝えによると手に入れた者は――」
「説明しなくていいわ。あんたの話は難しくて分からないから!」
「………………」
とにかく、こうして俺は新たな力を手に入れた。正気はしっかりと保っているが、魔人と呼ばれる存在になっているはずだ。
何が出来るようになったのかは、感覚で理解している。
「――じゃあ二人とも、そのままじっとしてて」
俺はそう指示した後、二人に向かって手をかざした。
そして、キマイラの突進によって負った怪我を治療してやる。
「す、すごいよアラン……こんなことまで……!」
「あんた治癒魔法も使えたのね。……流石に何でも出来すぎじゃない?」
――そう、俺は奇跡を起こす力を手に入れたのだ。
*
それから、俺たちは闘技場へと向かった。
「うわあああああんっ! お兄さまああああああああああああっ!」
「アラン様……っ! ご無事で……良かったですううううううっ!」
「言ったでしょう。全員ちゃんと戻って来るって。…………魔獣相手なら、レスターがいれば負けないわ」
無事に避難してきた俺たちの姿を見たニナとプリシラは大号泣し、ドロシアは安心した様子で微笑んでいた。
その後、俺たちを心配して闘技場へ駆けつけて来たメリア先生の話によると、主にダリア先生とドロシアの活躍によって魔獣は全て捕獲されたらしい。
そして驚いたことに、獣狩りの儀は予定通りの日程で行われるようだ。正気の沙汰とは思えないぜ。この国の人間は全員気が触れているんじゃないか?
……まあ、そんなことは別にいい。問題はその後。
「アラン様、グレンダ様、そしてレスター様。……あの強大な魔獣を討伐したあなた方は英雄ですぞ! 後日、皇帝陛下から直々に栄誉ある勲章と報酬が贈られることでしょう」
俺たちは、事件の話を聞きつけて闘技場へやって来たと思しき、高貴な感じの身なりをした爺さんから突然そんなことを言われた。
「ついでに、多くの魔獣を氷漬けにして捕獲してくださったドロシア様にも」
「あら、私はついでなのですね。……心外ですわ」
ドロシアがお嬢様言葉で話してる。おもしろ。
「おい見ろ! あそこに居るの……」
「『力比べの儀』で圧倒的な実力を見せつけて優勝した化け物二人と……そんな化け物を相手に、唯一まともに渡り合ったって話の天才姉弟じゃない……!」
「噂によると、さっき大暴れしてた魔獣の親玉を倒したのもあの子たちみたいだぞ……!」
爺さんの格好が目立ちすぎるせいで、闘技場に避難していた人々が一斉にこちらへ注目する。
「おまけに彼らが話している相手は、元老院の……ッ!」
「あの歳で目を付けられてしまうだなんて、末恐ろしい才能ね……!」
「まったく、今年の大会はどうなっているんだ。天才ばっかりじゃないか!」
大会に出場する以上ある程度は覚悟していたが、下手に目立ちすぎると色々な場所に呼び出されることになって面倒そうだな。
正直、別に皇帝にも会いたくないし。もうゲームで見たから。
……やれやれ、俺は優秀な先生達を相手に毎日気絶寸前まで鍛錬する穏やかな日々を送りたいだけなんだがな。
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