第26話 魔石発見!


「くらえッ!」

「グオオオオオオォンッ!」


 俺、レスター、グレンダの三人は、複合獣キマイラを囲んで殴り続けていた。


「だいぶ弱ってる……そ、そろそろ倒せるかも……!」

「なら……これでとどめよッ! 雷光突きライトニングナックルッ!」


 技名を叫びながら最後の一撃を叩き込むグレンダ。


「ガアアアアアアアアアアアアアッ!」


 かくして、キマイラは叫びながら塵になっていくのだった。


「あたし達の勝ちよッ!」

「あ、あれ……? もうそれは使えなかったんじゃ……?」


 不思議そうな顔で問いかけるレスター。


「しばらく殴ってたおかげで魔力が戻って来たのよ。あんた達はまだなの?」

「ぼ、ボクは……一回魔力を使い切ったら、眠らないと元に戻らないけど……」

「なにそれ? そんなことってあるわけ?」

「ふ、普通そうだと思うよ……? アランもボクと同じだよね……?」


 ――二人の話が噛み合わないのには理由がある。


 原作においてキャラクターがスキルを発動した際、レスターのような魔術師タイプが消費するのはMPマジックポイントであり、グレンダのような戦士タイプが消費するのはTPテクニカルポイントだからだ。


 この世界ではどちらも魔力と呼ばれているが、システム上は明確に区別されている。


 TPはMPよりも値が低めに設定されている代わりに、相手を武器で攻撃することによって回復する仕組みだ。攻撃してテンションが上がることでTPが復活するのである。


 ……そしてここからは俺の考察だが、おそらくこの世界の人間はレスターのような魔術師タイプと、グレンダのような戦士タイプで得意とする魔力の扱い方が違う。


 感覚なので詳しく説明するのは難しいが、引き出した魔力を体外に放出して使うことに長けているのが魔術師タイプであり、身に纏ったり体内で循環させたりして使うことに長けているのが戦士タイプなのである。


 おそらく、どちらのタイプになるかは魔力との触れ合い方で後天的に決まるのだ。


 メリア先生とダリア先生はこのことを経験で理解していたからこそ、俺にどちらか一方の授業を選ばせようとしていたのである。


 ――しかし残念ながらアランは天才なのでどちらもこなせてしまう。


 何か特別なことをした記憶はない。毎日気絶する寸前まで体内で魔力をぶん回しながらダリア先生と剣で打ち合った後、気絶する寸前まで魔力を放出しながらメリア先生と魔法を撃ち合い、余った時間で魔力に関する知識を学びながら気絶するように眠る日々を送っていたら、簡単に両方ともできるようになっていた。自身の持つ魔力を意識してMP用とTP用に分けるのがコツだ。


 強いて言えば、やはり先生達が優秀だったのだろう。


 ちなみに、原作でMPとTPの両方を扱えるのは主人公とアランだけだ。世にも珍しい魔法戦士タイプである。才能が恐ろしいぜ……!


 あと、試合中に魔法ばかり使っているように見えるのは、TPを使った技はいちいち叫ばなくても身体の動きだけで発動できるようになったからだ。


 魔法の詠唱の方が優先度が高いのでそちらに集中しているが、普通はグレンダのように叫んだ方が良い。気合いが出るのと連動して技の威力や速度が上昇するからな。


「つまりそういうことなんだ。グレンダみたいな技を使う為の魔力は……そろそろ回復するかな」


 俺は、上記の内容をこの世界の人間にも分かるような言葉で説明してあげた。


「意味わかんない! つまり自慢ってこと? ムカつく!」

「えっと……よく分からなかったけど、やっぱりアランはすごいんだね……っ!」


 だがお子様には理解するのが難しかったようだな!


「もういいわ! 他の魔物もだいたい倒されてるみたいだし、さっさと闘技場に行きましょ」

「待って。あれは……ど、どうする?」


 そう言ってレスターが指さしたのは、先ほどまでキマイラが倒れていた場所だ。


 そこには、紫色に怪しく輝く巨大な魔結晶が落ちていた。


「うわっ、随分と魔力を溜め込んでたのね。さっきの魔結晶は綺麗だと思ったけど、アレは一周回って気持ち悪いわ」

「危ない感じがするし……ここに置いておくのは、まずいんじゃないかな……?」


 巨大な魔結晶から異様な雰囲気を感じ取り、ドン引きしている様子の二人。


「二人とも下がってて」


 俺はそう言って前へ進み出て言った。


「……僕が持って行くよ。ただの魔結晶じゃないみたいだから」


 ――ていうかこれ、魔石じゃん。


「あたしはそれで良いけど……大丈夫なの?」

「…………うん」


 全然大丈夫じゃないぞ。原作だとこれのせいで国が滅びるんだからな。


「………………!」


 なるほど、つまりそういうことか。


 闘技場のキマイラによって取り込まれていた魔石が発見され、この国の皇帝に献上されるのが正規ルートというわけだ。それを許せば、紆余曲折あって俺は破滅する。


 この魔石が全ての元凶であるのならば、ここで処分しておく必要があるな。


「…………! ……くっくっくっ」

「あ、アラン……? どうして笑ってるの……?」


 いや、処分する必要はない。


 原作だといきなり七つも魔石を取り込んだから暴走しただけで、魔石一個分くらいなら今の俺でもコントロールできるのではないだろうか。……ちょっとだけ死ぬ気で頑張って魔力を抑え込めば。


「ごめんね、二人とも」


 一応は願いを叶える力が手に入るという設定らしいし、一個だけなら使わない手はない。


 ……ちょうど叶えたかった願いもあることだしな。


「――この魔石は僕が貰うよ」


 俺は二人に向かってそう宣言した。


 

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