第25話 狩られる恐怖を知るがいい
【キマイラside】
オレは、とある森の王者として君臨していた。
唯一の楽しみは、迷い込んだ人間をじっくりと痛めつけてから喰い殺すこと。それ以外は退屈な毎日。
……そんな日々に変化が訪れたのは、一年ほど前のことだ。
「グオオオオオオオオオオッ!」
洞窟の奥で見つけた『膨大な魔力の塊』を取り込んだ瞬間、更なる高みへと至ったのである。
「グ、グオオオオオッ!」
オレは『キマイラ』と呼ばれる種族へ進化し、今までより多くの物事が考えられるようになり、体も今まで以上に打たれ強くなった。
そうして、新たに得たその力を存分にふるい、食欲の
――食い物が無くなったので、次の標的は大好物の人間だ。
賢くなったオレは、人間どもの巣で行われる『獣狩り』という遊びのことを知った。それが行われる時には、多くの人間が一か所へ集まる。だからこそ、森へやってきた人間にわざと捕まり、巣へと持ち帰ってもらったのだ。
そうして、オレは狭い檻の中で絶好のタイミングを見計らった。
……やがて人間どもが騒がしくなり、『獣狩り』が始まったことを悟る。
オレはいよいよ檻を突き破って外へ出た。
その際に他の魔獣どもまで逃げ出したが、奴らは人間を奪おうとする敵だ。だから見つけ次第殺して喰った。
今、人間どもの巣――帝都では二種の獲物が逃げ回っている。うかれた人間どもと、飢えた雑魚魔獣ども。
どちらも自分が狩る側だと思っているだろうが、所詮はオレによって狩られるだけの存在だ。
殺した魔獣どもの肉はおおよそ喰い尽くしたので、次は昨日からずっと上で暴れていた魔力の高い人間のガキどもの肉をいただきたいところだ。
人間のガキは特に良い。肉は柔らかいし、簡単に泣き叫ぶ。おまけに、親の前で喰ってやれば更に楽しめるからな!
「闘技場に怪我した人を運び込んでるらしいから、そこに逃げ込めば多少は安全かも!」
――見つけた。そうだ、あれが俺の探していたガキどもの群れだ。
ざっと見たところ、
まずはオスのガキ二匹と、メスのガキ一匹を合わせた、計三匹をバランス良く頂こう。膨大な魔力が肉に染み込んでいて美味しそうだ。
脚からじっくりと喰って、上は残しておいてやる。なるべく長く泣き叫ぶ声を聞きたいからな。
その後は口直しだ。良質な魔力を持ったメスのガキ一匹、そして貧弱だが泣き叫ぶ姿が楽しめそうなメスのガキ二匹を合わせた、計三匹のメスの柔らかそうな肉を頂く。
先に喰ったガキどもの無惨な姿を見せつけて、恐怖と絶望をたっぷりと与えてから、手足を噛みちぎってハラワタを喰らい尽くしてやるぞ!
――あぁ、実に楽しみだ!
我慢できなくなったオレは、力を解放してガキどもの群れに突進する。
さあ、苦痛で泣き叫ぶ姿をオレの前に晒すがいい!
*
「
「グモオオオオオオオオオオオオオオッ!」
熱い熱い熱い熱いッ! 体が焼けるううううううううッ!
「
「グモっ、グモッ、ギュムっ、グモオオオオオオオオッ!」
ぐあああああああああああああああああッ!
「
「ごばばばばバババババッ!」
息がっ! 泥水で息が出来ないッ!
「
「ガフッ!」
首が締め付けられるッ!
「グゴゴゴゴッ!」
苦しい! 苦しい苦しい苦しい苦しいッ!
的確に窒息させようとするのはやめろッ!
「オオオオオオオオオオオオォンッ!」
気づくとオレは苦痛で泣き叫んでいた。
――意味が分からない。
なぜひ弱な人間のガキどもに囲まれ、袋叩きにされている?
なぜ三方向から殴られている?
「――
「五連・
「
「グギっ……ぐぐ、グググ……」
許さないぞ。
貴様らは簡単には殺さん! 自ら死を願うほどの苦痛を与えた上で、じっくりと時間をかけて殺すッ! 楽に死ねると思うなッ!
*
「こ、これで……どうだっ!」
「いいかげん……死になさいッ!」
「しぶとすぎる……っ!」
――バキっ、ゴッ、ドゴッ、ボカッ、ボカッ。
「ぐ、グオォ…………」
やがてガキどもの魔力が尽きたのか、殴ってくるだけの攻撃になる。
絶好のチャンスだが、散々痛めつけられたオレの体は動かない。
――ドゴッ、ドゴッ、ガシッ、ボスッ、ボスッ、ボスッ!
「グっ……ギュむッ……グギッ」
――バコッ、ドカッ、バキッ!
「な、なんかちょっと……かわいそうかも……」
「人を襲う畜生に同情なんて必要ないわっ! 油断したら食べられるのはあたし達の方よっ!」
「ここまで弱ったらもう何もできないと思うけどねぇッ!」
――ドゴッ! ゴンッ! ボキッ!
頼むから……早く殺してくれえええええええええっ!
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