第24話 最凶のボスキャラ


 魔獣が襲撃して来た直後、俺はとっさにニナとプリシラの元へ駆け寄った。


「ニナ! 走れる?」

「は、はいっ!」

「プリシラをお願い」

「も、もちろんですっ!」


 まずは戦えない二人を最優先で安全な場所へ避難させる必要がある。


 俺は、魔獣の意識がダリア先生へ向いている隙にニナ達を訓練場の外へと連れ出した。


 しかし――


「魔獣どもが逃げ出したぞッ!」

「早く騎士団を呼んで来い!」


 闘技場の周辺も魔獣で溢れかえっていた。


「ぐあああああっ!」

「クソッ! 負傷者は闘技場に運び込めッ!」


 戦っている冒険者や騎士達の悲鳴が聞こえてくる。


「ちょ、ちょっと何よこれっ!」


 するとその時、俺の後に続いて外へ出てきたグレンダが言った。


「武器を持ってきて良かったわ!」


 その手には、訓練場から持ち出して来たと思しき本物の突剣が握られている。


 素早さが突出しているグレンダが俺より遅く出てきたのは、それを探していたからか。


「あとっ、ダリアって人は置いて来ちゃって良かったのっ?!」

「本気のダリア先生は僕よりずっと強いから大丈夫」

「最強じゃない! 心配するだけ無駄だったみたいねっ!」


 どうやら分かってくれたらしい。


「こっちだよっ、ドロシアっ! 急いでっ!」

「ま、待ってちょうだいレスター……っ! そんなに、むちゃくちゃしたら……きゃあっ?!」


 続いてレスターとドロシアが入り口で派手につまずきながら外へ出て来た。


「うぅ、いたい……ってうわぁ?! 外も魔獣でいっぱいだっ!」

「まったく、何を叫んで……ってきゃあ?! 外も魔獣でいっぱいじゃないっ!」


 こんな時に双子アピールしなくても……。


「あんた達……どんくさいわね……。大会の時はけっこーきまってたのに……一周回って微笑ましいわよ」


 グレンダ、今は和んでいる場合ではないぞ。


「さてと、どうしたものかしらね」

「グギャアアアアッ!」

雷光突きライトニングスタブッ!」


 飛びかかって来た魔獣を細身の突剣で突き刺しながら呟くグレンダ。


 魔獣の肉体は塵になって消滅し、凝縮された魔力が結晶となって転がる。


「へー、これが『魔結晶』なの。初めて見たわ」


 グレンダは、それを拾い上げながら呟いた。ちなみに、原作だと魔結晶は装備品を強化する為の素材として使える。


 俺はその要素をガン無視してクリアしたので詳しいことはよく知らない。


「お、お兄さま……」


 服を引っ張られたので振り向くと、プリシラが泣き出してしまいそうな顔で俺のことを見ていた。


 ――そうだ。妹を守らねば。


「闘技場に怪我した人を運び込んでるらしいから、そこに逃げ込めば多少は安全かも!」


 俺は皆に向けて言った。


「魔獣を閉じ込めてたのは闘技場の地下なのに? おかしな話ねっ!」


 と、グレンダ。


 確かにそうだ。まだ内部に逃げ出した魔物がとどまっている可能性はないのだろうか。


「と、とにかく行ってみようよ。ずっとここに居ても危ないし……」

「私もレスター様の意見に賛成です。少なくとも、この場所よりは安全かと」


 まあ、考えていても仕方ないな。


「……決まりね。それじゃあ……前は私に任せてちょうだい……」

「ドロシア、あんたは真ん中よっ! じゃないとみんな迷子になっちゃうでしょっ!」

「心外だわ。人を方向音痴みたいに言って……」


 かくして、俺達は闘技場へと向かうのだった。


 *


 ……はずだったんだが。


「グオオオオオオオオオオッ!」


 俺は今、闘技場からそれなりに離れた場所にある帝都の中央広場で、巨大な魔獣と対峙している。


 俺の後ろでは、グレンダとレスターが血を流して倒れていた。


「……かなりまずいな」


 闘技場へ向かって避難していた俺達の列に、突如としてコイツが突っ込んできたのだ。


 俺達三人はキマイラの突進で派手に吹き飛ばされ、勢いで民家を何軒かぶち破ってここへ投げ出された。冗談みたいな吹っ飛び具合である。


 おそらく、魔力の高い奴を狙ったのだろう。プリシラやニナが巻き込まれていたらと思うと……ぞっとすると同時に激しい怒りが湧いてくるな。


 ――だが、向こうはドロシアが付いていてくれれば大丈夫だ。


 何故なら、まず間違いなく目の前にいるコイツが一番危険な魔獣だからである。


 俺が対峙しているコイツの名は、『複合獣キマイラ』


 原作ゲームの中盤で登場するボスにして、最終盤のザコだ。


 高い攻撃力を有している上に、通常攻撃が全体攻撃扱いで、おまけにコイツの通常攻撃を受けると一定確率で麻痺や毒といった状態異常にかかってしまう、非常に厄介な敵である。


 しかしそれ以上に、コイツからは極めて異質な魔力を感じるのだ。おそらく、逃げ出した魔獣たちの親玉なのだろう。


「二人とも……大丈夫っ!?」


 ひとまず、俺は倒れている二人に向かって呼びかける。


 見たところ、まだ息はありそうだが……。


 正直、気絶したグレンダとレスターを庇いながら戦うとなるとかなり厳し――


「うぐぅっ……ふざけないで……よ、いったいわねぇッ! ……あ、あれ? 剣がない! ちょっと、どうしてくれるのよっ! もっと振り回してみたかったのにッ!」

「うぅ、血が出てる……。今日の服……汚したらお母さまから怒られるのに……ひどいよ……。こんなことって……っ!」


 割と平気そう。

 

 ……いやぁ。二人とも頑丈だなぁ。


 狙われたのがこの三人で良かったね。


「もういい! 素手でぶち殺してやるわっ! 名付けて雷光突きライトニングナックルよッ!」

「そ、そうだよね、魔獣相手なら……殺す気でやってもいいんだよね……? 火焔砲ヴォルカノンとか……使っても大丈夫かな……?」

「じゃんじゃん使いなさい! この戦い、ヤるかヤられるかよッ!」

「わ、わかった……ボク、全力でヤる……!」


 ――その時二人の魔力が高まったのか、背後で轟音と爆音が鳴り響いた。


「………………」

「ぐ、グオオオオオオオオ!」


 むしろ後ろの奴らの方が危ないじゃん……。よく考えたらこっちもボスキャラの集まりだしな。キマイラなんて、ただの雑魚だぜ!


「よぉし! みんなで魔獣をぶっ殺そう!」


 俺は元気を出して叫んだ。もうどうにでもなれ!

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