第20話 怪物VSグレンダ

【ドロシアside】


 自慢ではないけれど、私は強い。


 レスターと違って魔力の制御は完璧だし、武器の扱いもそれなりに仕込まれているから。


 アランのような、ちょっとおかしい例外が存在しない女子の部で優勝することなんて簡単だと思っていた。


 もっとも、本当はそのアランにも勝つ気でいたのだけれど。


 決勝の試合を見たら流石にそんな気も失せた。


 きっと、本気のレスターと正面から撃ち合っていたあの時でさえ、手加減をしていたのだろう。


 強さの底が知れない。


 決勝まで勝ち進んだけれど、結局アランに届きそうな子はいなかった。


「あんたが『氷の怪物』ドロシア・ホロウズね! 噂は聞いているわ!」

「そう…………」


 ……けれど、決勝戦の相手は少しだけ様子が違う。


 少なくとも、私と同等かそれ以上の実力がありそうだ。


「私は……自分がそんな失礼な名前で呼ばれているだなんて知らなかったわ。訂正して周る必要がありそうね。……教えてくれてありがとう。グレンダ・トゥイガー」


 トゥイガー家は、確かレーヴァンの分家。その長女であるグレンダは私と同じくこの大会の優勝候補。


 決勝で当たるようにトーナメントが組まれていることは当然といえる。


「とにかくさっさと始めましょう! モタモタするのは嫌いなの!」


 二つに結んだ金髪に、釣り上がった瞳。雷の元素に対する適性を持つ彼女は、性格もぴりぴり――もといビリビリしていそうだった。あと、せっかちそう。


 ……正直苦手だわ。早く終わらせてプリシラに癒されたい。やる気がなくなってきた。


「ドロシーがんばれ〜っ!」


 ああ、天使みたいなプリシラの声が聞こえた。……やっぱり私、がんばる。


「ええ、そうね。早く始めてしまいましょう」


 お互いが合意したことで、試合開始を告げる笛の音が鳴り響く。


雷光突きライトニングスタブッ!」


 その瞬間、グレンダは木剣に雷を纏わせて高速で突進してきた。


 いわゆる剣技というやつなのだろう。


氷盾アイスシールド


 けれど私は、グレンダが仕掛けてくるのとほぼ同時に魔法で防壁を展開していたので、どうにか攻撃を受けずに済んだ。


 ――魔力同士が衝突することで轟音が響き渡り、氷の盾に穴が空く。


 いきなり何も考えずに突っ込んでくるタイプだと思っていたけれど、案の定ね。


「ふーん。なかなかやるのね。今の技、この大会で使うのは初めてだったのに!」


 そう言って、木剣の突きで開けた穴からこちらを覗き込んでくるグレンダ。


「噂通り強いみたい! 張り合いのないザコじゃなくて安心したわ!」

「………………」


 そうしている間にも、穴を中心に亀裂がどんどん広がっている。


 おそらく、この盾はもう保たない。


 無詠唱の氷魔法であの剣技を受け切ることが出来るのは、一回までと思っておいた方が良さそう。


雪室ゆきむろの氷よ、骨を断ち切る爪甲そうこうとなれ――氷刃アイスブレード


 私は氷の盾が崩れるのと同時に、魔法で自分の木剣を凍結させ、先端部から二手に分かれた氷の刃を生やすことで、巨大な氷の斧を作り出す。


「へぇ、それがあんたの必殺技ってわけ」

「……この大会で使うのは初めてね。――初撃で決められなかったことを後悔しなさい」


 言いながら、グレンダに向かって素早く、かつ全力で氷の斧を振り抜く。


「はやっ?!」


 他の子相手にやったら、たぶん首が弾け飛んじゃうくらいの勢いだ。


「――くっ!」


 予想外の速さに驚いたのか、木剣で受け止めて身体ごと吹き飛ばされるグレンダ。


「あ、あんたのどこに……そんなもの振り回す力が……っ!」


 地面の砂まみれになって立ち上がり、私の方を睨みつけてくる。


「私……戦っている時にお喋りするのは、好きじゃないの。……終わってから教えてあげる」


 私は彼女が体勢を崩している隙に斧を構えて接近し、今度は縦に振り下ろす。

 

「――チッ!」


 グレンダが舌打ちしながら背後に飛んでかわしたので、次は懐に踏み込んで下から振り上げる。


「あぶなっ!?」


 でもそれも的確に見切ってきた。なかなかしぶとい。


 反応の早さと純粋なすばしっこさは人並み外れているわね。本当に苦手。


「この怪物っ!」

「心外ね……」

「怪力女!」

「………………」


 おまけにすごく失礼。


 私は別に力が強いわけじゃない。レスターとだいたい同じくらい。

 

 ただ、自分が魔法で作り出した氷の斧は、魔力制御の応用で重さを気にせず自在に振り回すことが出来るだけ。


 要するに魔術の範疇だ。


 ……けれど、魔術のことをよく理解していない人から見たら、身の丈以上の武器を振り回す怪力の化け物に見えてしまうのかもしれない。


「……不愉快だわ」

「あれれ、怒っちゃったのかしら?」


 私は首筋に向かって斧を薙ぎ払う。 


 しかし、それは木剣で的確に受け流されてしまった。


「ふん! もうそれは通じないわよ!」


 ――打ち合う度に相手の対応が慣れてきている。

 

「………………っ!」


 どうやら、初撃で決めなければいけなかったのは私の方だったみたい。


 試合が長引いたせいで集中力が途切れ、魔力制御されていた氷の斧の重さが少しずつ腕に伝わってくる。


「そろそろ終わりにしましょうか」


 その瞬間、視界からグレンダの姿が消えた。


「――雷光突きライトニングスタブッ!」


 気づいた時にはもう遅く、私の身体は地面に倒れて動かなくなっていた。


「あ……ぅ……」


 氷の斧が溶けて崩れ落ちる。


 ……グレンダは、二撃目の雷光突きライトニングスタブを確実に決めるために、わざと初撃を遅くしていたみたい。


「けっこー楽しかったわよ! ――次はアラン・ディンロードねっ! 絶対にとっ捕まえて試合してやるんだからっ!」


 私の負けだ。

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