第19話 瀕死のアラン(その2)


 精霊祭二日目の早朝。自室にて。


「おにいさまああああああっ!」

「ど、どうしたのプリシラ……?」


 俺は大泣きするプリシラに纏わりつかれていた。


「ごめんねぇっ! うっ、うぅぅっ!」

「………………?」


 もしかして俺、また何かやっちゃいました?


「よく分からないよ。どうしてそんなに泣いてるの?」

「だって、だって……お兄さま……きのうずっと一人だったって……ニナがっ!」

「え…………?」

「お友達……いなかったんだねぇっ!」

「ごふッ!?」


 不意の一撃を食らった俺は、精神に大きなダメージを受ける。


「今日は一緒にお祭りまわろおおおおおおっ! ひっぐ、うわああああんっ!」

「……う、うん。ありがと……(瀕死)」 


 どうやら、一人で居るところをニナに見られてしまったらしい。そして、なんやかんやでプリシラにまでバレてしまったということか。


 マジうける。


「よしよし……もう寂しくないからねお兄さまああああっ!」

「………………」

「ぐすっ、お兄さま……?」

「………………」

「い、息してない……!」


 *


 ――その後、プリシラの手で自室から引きずり出されて皆と顔を合わせた。


 しかし不思議なことに、みんないつもより優しい。


「時には一人で過ごす時間も大切よね。……だから心配する必要はないわ、アランちゃん。辛くなったらいつでも抱きしめてあげる……」


 メリア先生は謎の励ましをしてきて、


「アラン君。困ったことや悩んでいることがあるなら、なんでも私に相談してくれ。たまには……甘えてきてもいいんだぞ?」


 ダリア先生は静かに微笑みかけてくる。


「私はどんな時でもアラン様の味方です。例え世界がアラン様の敵に回ったとしても……一生を添い遂げる覚悟でいます」


 ニナはいつも通り重い……。


「……心配するな。俺も、精霊祭は毎回一人で楽しんでいた」


 そして、お父さまは衝撃のカミングアウトをしてきた。


「言われてみれば……キミがエリザ以外の人間と一緒にいたところを見たことがないな」

「あなた……本当に子供の頃からずっとそんな感じだったの? エリザが物好きで良かったわね……」

「………………」


 親子二代でソロプレイヤーとか、これもう呪われた家系じゃん。


「私、もう絶対に離れないよ! お兄さまっ!」


 そして最後に、プリシラが俺の手を固く握ってきた。


 プリシラはお母さまに似て良かったのかもしれない。


 ……それにしても、正直そこまで気にしていなかったんだが、みんなから一斉に優しくされると逆に気になってくるな。


 優しさが痛いぜ。


 あと、プリシラが手を握る力も地味に強くて痛い。


 *


 そんなこんなで、プリシラに連れられて再び闘技場へやって来た俺は、ドロシアの応援をすることになった。


 今日は力比べの儀の女子の部とやらがあるからな。


 正直、魔力の存在によって男女差は埋められているっぽいので、わざわざ部門を分ける理由もない気がするんだが。


 ……まあ細かいことは気にしないでおこう。


「ドロシー! がんばって〜!」


 ちなみに、プリシラはドロシアのことをドロシーの愛称で呼ぶらしい。


 ややこしいなぁ。


「……レスターくんはドロシアのことああやって呼ばないの?」


 ふと気になった俺は、隣に座っているレスターに問いかけた。


 まあ、当然ドロシア姉貴の応援には参加するよな。


「はい。微妙な距離感ですから……」

「そ、そうなんだ」


 あれ? 仲は良さそうだと思ったんだが……。意外に闇が深いなぁ。


「……アランくんは、もっとボクのこと馴れ馴れしい感じで呼んでもいいですよ」

「え……?」

「レスターって、呼んでください。……その、もう友達ですからっ!」

「………………!」


 この対応……プリシラから余計なことを吹き込まれているなッ!


「それなら、レスターく――レスターも僕のことアランって呼んでよ。話し方も、もっと砕けた感じでいいからさ」

「うっ……そ、それは……!」

「僕の……初めての友達になってくれるんでしょ?」

「あっ、アランくんの……初めて……!」


 それから、レスターはしばらく固まった後、こう続けた。


「……分かったよ。これから、よろしくね。……アラン!」

「うん。よろしく、レスター」


 こうして、俺は二代目にして一族の呪いを断ち切ったのである。


 やりましたよお父さま! 我々にも友達は作れるみたいです!


「やったー! ドロシーの勝ち〜!」


 ……そうこうしている間に、ドロシアが初戦を突破していたようだ。


 でもどうせ優勝するし、ちょっとくらい見逃しても大丈夫だよな!

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