第17話 狂わされた者たち
大会で優勝した俺は、闘技場の中心で盛大に表彰された。ちなみに、気を失って治療所へ搬送されたギルバートは表彰式に参加していない。
かわいそうだけど自業自得だな! 貴様にプリシラは渡さん! 出直してこい! いや二度と来るな! 帰れ!
――そんなこんなで表彰式を終えて一度控室へ戻ると、何故かレスターが一人で居残っていた。
背中を叩いて声をかけようとしたその時、レスターは突然独り言を呟き始める。
「
「………………」
無言で見守る俺。
「――ちょっとやり過ぎた(キリッ)」
そう言ってポーズを決めた後、ぼそりと一言。
「か、かっこいい……!」
「……もしもし?」
「ひゃぁっ!?」
「レスターくん今の……」
さっきの試合で雑魚狩りしてハイになってた時の俺の台詞じゃん。冷静になってから目の前でやられるとめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。
「ちっ! ちがうよっ! ちがうんだっ!」
「どうして僕の真似を……?」
「わ、忘れてくださいっ!」
「そんなこと言われても」
「うっ、うぅ……っ!」
潤んだ目で俺のことを見つめてくるレスター。
「わ、わすれてぇ……っ!」
……なるほど。
見なかったことにした方がお互いにとって良さそうだな! 俺の本能がそう告げている!
「あ、そうだ! それより、レスターくんに話しておきたいことがあるんだ!」
俺は全力で話題を逸らすことに決めた。
「ボクに……話しておきたいこと?」
「大切なことだからよく聞いてね。……ドロシアにも話していいから」
――そう前置きして俺が話したのは、二人が教団に狙われているという原作ストーリーの知識だ。信じてもらえるかはともかくとして、隠しておく理由がないからな。
「……特に、十二歳の誕生日の時は気をつけて。それから、身の回りで不審なことがあったら僕にも教えて欲しいんだ。……出来る限りの協力はする」
「…………!」
何も言わずに沈黙するレスター。まあ、そうなるよな。
「もちろん、こんなこと言われてもすぐには信じられな――」
「信じます!」
「えっ」
予想外の返答が返ってきたので思わずレスターの顔を見ると、目をものすごくキラキラと輝かせていた。
……あれ、なんか予想してた反応と違うな。
信じてくれないか、もしくは怖がると思ってたのに。されて嬉しい話じゃないし。
「でもっ! どうしてそんなことが分かっちゃうんですか!?」
ぐいぐいと詰め寄ってくるレスター。
やばい。こんなに食いつくと思ってなかったから、なんて説明するか考えてないぞ。
脳内では「もちろん、すぐには信じられないよね」→「はい……」→「僕も事情があって詳しく説明できないんだけど――」的な感じではぐらかす流れを想定していたのに!
「え、えっと、その……予知夢……的な~?」
「予知夢!? ア、アランくんはそんなものまで見れるんですか!?」
「ちょ、ちょっとだけ~……?」
昨晩それっぽいの見たし、嘘ではないよな!
「す、すごい! すごいですアランくんっ! アランくんアランくんアランくんっ!」
「おちついて」
「はぁ、はぁ……アランくん……!」
俺の話、ちゃんと伝わってるのか……? レスター、お前の身に危機が迫ってるんだぞ……?
「――そうか! きっと、アランくんは選ばれし勇者なんですねっ!」
「いやぁ……違う」
どちらかといえば魔王だし、最後は勇者に倒されます……。
「じゃあっ、僕たちが危ないってドロシアにも伝えてきますっ!」
レスターはそう言い残し、勢いよく控室を飛び出していった。
たぶん、その感じで話してもドロシアは信じてくれないと思うぞ……。「レスター、色々と危ないのはあなただけよ」みたいな感じであしらわれそう。
*
【ギルバートside】
「うわああああああああああッ」
治療所のベッドで目を閉じていた俺は、悪夢を見て飛び起きる。
「はぁ……はぁ……はぁっ」
大会は終わった。俺は準優勝。……そう、アランに負けたんだ。
奴は俺の身体を真っ二つに切ったと言ったが、それは嘘だった。
俺は傷一つ付けられていない。
そう、俺が気付けないほどの速さで
……俺には分かる。これは「その気になれば本当に殺せた」という挑発――いや、警告だ。
無詠唱かつ高速で放った魔法の威力をここまで抑えられるということはつまり、その逆も可能であるということ。ガキの分際で……ここまで高度な魔力制御をしやがるなんて……ふざけているのか?!
俺は馬鹿にされたのだ。傷付けるにすら値しない――取るに足らない雑魚だという宣告を、大勢が見ている前でされたのだ。
「クソっ! クソクソクソクソッ! ふざけやがってぇ……ッ!」
憎い。今すぐ奴をここへ引きずり込んで跪かせてやりたい気分だ。しかしそれはできない。奴と俺の間には絶望的な実力差がある。
――いや、才能の差か?
「ああああああっ!」
俺は叫んだ。
怒りで頭がおかしくなりそうだ。
同世代で俺に勝てる奴なんてどこにもいないと思っていたのに、なんだあの化け物は!
ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!
おまけに、俺がレスターより弱いだと……? 絶対にありえない!
「アラン……ディンロードぉ……!」
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!
絶対に殺す!
「うぅっ……うわああああああっ!」
――そんな殺意とは裏腹に、俺の体は震えながら涙を流していた。
「ひっぐ……うえぇぇっ!」
本能が奴のことを恐れている。
俺はこのベッドから出ることすら出来ない。
怖い。アラン・ディンロードが怖い。
「くっそぉ……ッ!」
レーヴァン家の名を背負っておきながら負けた俺を、父も母も責めなかった。それどころか、「相手が悪すぎる」と言って慰めてきやがった。
もしアラン以外に負けたのであれば、俺は厳しく叱責されたことだろう。
それが最も腹立たしい。
アランに負けたのは俺だけじゃない。あの時試合を見ていたレーヴァン家の人間全てだ。
奴はたった一瞬で……俺の全てを……!
「クソッ! 忘れろ……ッ! 忘れろ忘れろ忘れろッ! あんな……あんな奴のことなんて……ッ!」
――そうだ。今日の試合はなかったことにするんだ。
あんな化け物が存在するはずがない。
俺は、ベッドの脇に立て掛けてあった木剣を手に取る。
「うあああああああああああッ!」
そして、脳裏にこびりついているアランの幻影に向かってめちゃくちゃに振り回した。
「消えろおおおおおおおおおおおおッ」
その瞬間、握っていた木剣が手から滑り落ちる。
「…………は?」
――手が震えて剣をまともに握れない。
「なん……だと……?」
そうだ。これから一生、今日の試合を忘れることなんてできないんだ。
剣を握ろうとする度に、あの時の恐怖が鮮明に蘇ることになる。
何故なら、俺はあそこで死ぬべきだったから。
奴の気まぐれで生かされて、今の俺がある。
もし仮に、試合をするより前に奴の妹に手を出していたとしたら……?
あの時の真っ二つは、冗談ではなくなっていただろう。
「ぁ……! あ……!」
俺はもう……戦えない。
「うわああああああああああッ!」
絶望的な事実に気づき、再び絶叫した。
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