第16話 決勝戦
その後、俺は順調に決勝まで進んだ。
「おにーさまーっ! がんばれーっ!」
「アランくんっ! ふぁいとーっ!」
プリシラとレスターの応援のおかげで。
「アラン様っ! ニナはもう……アラン様が危険な目に遭う姿を見ていられませんっ! うぅっ……アラン様ぁっ!」
「はいはい、落ち着きなさい。心配しなくてもアランちゃんが優勝するから」
「ニナ君。そんなに辛いならわざわざ試合を見なくても良いんだぞ? ……どうせアラン君が優勝するだろうしな!」
「い、いいえっ! ニナは……どんなに辛くても……最後までアラン様のご活躍を見届けますっ……! それが……メイドとしての務めですっ! アラン様……どうかご無事でっ!」
先生二人は俺の優勝を確信しすぎだし、ニナの応援は情緒が迷子で少し怖い。
「お、応援くらいはしてあげるわ……がんばりなさ「うおおおおおおおおおおおおおおお! さっさと始めろおおおおおお!」
そして、ドロシアの声は周りの声援にかき消されてほとんど聞こえてこないので、俺をちゃんと応援してくれているのはプリシラとレスターの二人だけだ。
後はほとんど対戦相手の応援しか聞こえない。
名門貴族の長男にしては絶望的に人望がないな。笑えるぜ。
……もしかして、ディンロード家って嫌われてるんですかお父さま?!
「……ふん、お前がアラン・ディンロードか。見るからに弱そうな奴だ」
ちなみに、決勝戦の相手は俺の目の前で通常よりも二回りくらい大きな木剣を構えて悪態をついている茶髪の少年――レーヴァン家の長男、優勝候補のギルバート・レーヴァンだ。
魔法の適性は土属性。原作で過去が語られることはないが、魔石の力を取り込んで魔人と化した後は闇の力を操る残虐な黒騎士になる。
趣味で部下の兵を家族ごと焼き殺し、戯れで魔物に村を襲わせ、暇潰しに奴隷にした女子供を拷問し、ついでに魔物も八つ裂きにして処刑する、やりたい放題な外道キャラだ。
よくよく考えてみれば当然のことだが、帝国で行われているこの大会には将来のボスキャラ――即ち魔人候補が集まっているらしい。
つまりこのまま放置していると、どいつもこいつも様々な事情で魔石の力を取り込んで残虐な魔人と化してしまうというわけだ。実に厄介な話である。もっとも、今のところはどうすることもできないが。
「お前みたいな雑魚が『死神』なら、俺はさしずめ『悪魔』といったところか?」
「うん。大体そんな感じ」
というか、悪魔もドン引きするレベルの鬼畜でした。
「ふん! 泣いて逃げ出すなら今のうちだぞ? 泣き虫レスターみたいにな!」
「………………!」
「聞いたよ。俺の子分どもが虐めてたあいつのこと、お前が助けたんだろ? どいつもこいつも『化け物だー』ってビビりやがって。……ちょっと派手な魔法が使えるからって調子に乗りすぎなんだよ」
「………………」
「お前の全属性魔法も、泣き虫レスターが隠してやがった爆破魔法も、所詮は見せかけだけの使えない雑魚魔法だってこと、今から証明してやる」
「………………」
めっちゃ喋るじゃん。お互いが合意しないと試合始められないんだけど。
「一瞬で負かしてやるから覚悟してろよ間抜けヅラッ!」
というか、原作の所業があまりにも邪悪すぎるせいで、目の前でいくら挑発されても微笑ましいとしか感じないな。
出場者の中で俺の次に強いであろうレスターを馬鹿にしたことだけは、ちょっとだけムカつくが。
「言いたいことはそれだけ?」
「……あ? まだ話してる途中だろカス」
「………………」
もしかして、話し相手に飢えているのか……? この性格だと、子分扱いしてる悪ガキどもからも距離を置かれていそうだからな。
ちょっとかわいそう。
「わかった。じゃあ気が済むまで沢山話していいよギルバートくん……!」
「気持ち悪い奴だな。死ね」
「そんなこと言わないでよ」
友達がいない辛さは、俺も現在進行形で味わっているからな!
「……そうだ。あそこで応援してるの、お前の妹だろ?」
「え?」
ギルは、観客席に座るプリシラのことを指さしていた。
「……うん、そう」
なんとなく答えたくない質問だな。一体何を考えてやがるんだ?
「見たところ、性格は最悪だが顔は良い。将来は俺の愛人にしてやってもいいぞ」
「………………は?」
「感謝しろよ」
「え?」
「押さえつけてぶん殴ってやれば良い声で鳴きそうだ。今から楽しみだぜ」
「わかった。じゃあお前はここでころす」
殺意に目覚めた俺の全身から、抑え込んでいた魔力が溢れ出す。
「――やっと本性を表したな! 面白い、さっさと始めようかァ!」
「ころす」
「やれるもんならやってみろよッ!」
合意が成立したとみなされ、試合開始の笛が鳴る。
同時に、ギルバートは素早く俺の懐へ踏み込んできて、大剣を振り下ろした。
「おそい」
まともに受けたらこちらの木剣が破壊されてしまいそうなので、俺は最小限の動きでそれをかわした。
轟音と共に大剣が地面を抉り、周囲が揺れる。
「よわいなあ」
「舐めやがって……ッ!」
だが、それで攻撃は終わらない。
「
ギルバートの詠唱によって、俺の足元から鋭い土の槍が勢いよく突き出したのだ。
「おっと」
なるほど、二重の攻撃によって大振りな大剣の隙をなくすという戦闘スタイルを採用しているようだ。
魔術の練度は低いが、それなりに考えているようだな。流石は優勝候補。
「チッ、かわしたか。だが、そう何度も――」
「僕の勝ちだ」
「あ……?」
「……確かに天才みたいだけど……まあレスターくんよりは弱いかな」
「なん……だと……?」
しかし残念ながら、俺はもう攻撃を終えている。
「背中、触ってみなよ」
俺に言われたギルバートは、構えを崩さずにそっと自分の背を触る。
「どうして濡れてるんだろうね?」
「……血、だと?」
「どうだろう?」
「い、いつの……間に……」
「背中からお腹のあたりまでずっと痛いでしょ? もうすぐ真っ二つになるよ」
「う、うそ……だ……。あ、あぁぁ……!」
ギルバートはそう呟くと、膝をついて大剣を手放した。知らぬ間に一撃を食らったことがよほどショックだったらしい。
「うん、嘘だよ。ちゃんと手を見て確認すれば良かったのに」
「………………」
決勝まで敵なしだったからな。ダメージを受けることに慣れていないのだろう。
「……本当は血じゃなくて水だからね。体も無傷だと思うよ」
相手が俺に気を取られている間に、無詠唱の水魔法――
それから少しだけ脅かして動揺させ、その隙にもう一度攻撃しておちょくってやるつもりだったんだが……あっさりと勝ってしまったな!
「
俺は、いつの間にか意識を失って倒れていたギルバートに向かって言い放つ。
「――ちょっとやり過ぎた」
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