第14話 目覚めるレスター
俺は木剣を構え直し、再びレスターに接近する。
――詠唱をする暇を与えず連続で攻撃を叩き込むのが、魔術師を相手にする時の基本戦術だ。メリア曰く……『
……って、前にダリア先生がドヤ顔で言ってた。その脳筋戦法が正しいのかは知らない。
「わっ! こ、来ないでっ!」
俺が急接近すると、レスターは突然その場にかがみ込んで地面へ両手をついた。
「え? 降参するの?」
魔術の天才とはいえ、やはり戦いには慣れていないのだろうか? そう思った次の瞬間。
「ちっ、違いますっ!」
レスターが触れていた地面が爆発した。
「目眩しか……」
周囲は砂塵と爆煙に包まれ、お互いの姿が見えなくなる。
この隙に態勢を立て直すつもりのようだが、そうはさせない。
「
俺は風魔法で周囲の煙を吹き飛ばし、視界を晴らす。
すると、前方にまん丸と目を見開いて立ち尽くすレスターの姿が見えた。
「す、すごい! 水魔法以外も使えるの……?!」
「
「え……?」
俺は投げた木剣を魔法で変形させ、レスターの足に巻き付かせる。
「あ、あれ、三属性……?」
「
「わぁっ?!」
今度は頭上から氷柱を落とし、周囲を取り囲んだ。
「よっ、四属性……! そんなことって……」
「いいや」
「ん……?」
「
「ふえぇ?!」
「全属性使える」
「…………!」
キラキラと目を輝かせるレスター。俺はその隙に距離を取り、生成した魔法全てを一斉にぶつけた。
「うわあああああああッ!」
レスターは悲鳴を上げ、ぼろぼろになってその場で膝をつく。
「う……ぐっ……!」
勢い余ってやってしまった。かわいそうに。俺には血も涙もないのか。
「レスターくん大丈夫?」
「まだ……まだ……っ!」
俺の問いかけに対してそう返事をし、再び地面を爆発させるレスター。
「またそれ? いくら目眩ししたって――」
「
刹那、爆煙の中から巨大な火球が物凄い速さで飛んできた。
「っ!
俺は咄嗟に水魔法で自分の身を守る。
しかし、詠唱を短縮した状態では火球の威力を殺しきることができない。
「
俺は追加で魔法を詠唱し、限界を迎えた水の盾が弾け飛ぶのと同時に巨大火球へぶつけた。
「
しかし、そこへ更に追加で火炎魔法が飛んでくる。
「
防戦一方。このままだと、一発の威力が強いレスターに押し負けてしまうな。
「
「
向こうはがむしゃらに同じ魔法ばっかり撃ってきてるし。
「
「…………ッ!」
爆煙に包まれて周囲が見えなくなった所へ、さらに
「はぁ、はぁ……こ、降参……しますか?」
向こう側からレスターの声。
「……まさか。僕は無傷だよ」
「そんな…………!」
――
やっぱり、最後に勝負を決めるのは脳筋戦法だったらしい。さすがダリア先生だぜ! 色々と疑ってすみませんでした!
「ファイヤ――」
「
「わあああああああああっ!」
後は、到達の速い雷魔法を相手の詠唱が終わる前に発動させて勝利だ。
「う、うぅぅ……それっ……ずるいぃ……っ!」
感電しながら、涙目でこちらのことを見てくるレスター。
「僕もそう思う」
俺一人だけ全属性使えて剣術もできるなんて、ずるすぎるよな!
「けど……すごいなぁ……。ボクじゃ……絶対に、敵いません……」
「ううん、レスターくんの火炎魔法もすごかったよ。一発でも直撃してたら、たぶん僕が負けてた」
「…………! え、えへへ……」
レスターは、嬉しそうに微笑みながら気を失った。
「あ、あれ? やばい。やり過ぎた……!」
*
【レスターside】
すごい!
すごいすごいすごいすごいすごいすごい!
「――このままじゃ、ただの弱い者いじめになっちゃうだろう?(キリッ!)」
かっこいい!
試合に負けて治療所のベッドで目覚めたボクは、アランくんの言ったことを真似していた。アランくんみたいにかっこよくなりたいからだ。
ベッドの周りはカーテンで仕切られてるし、近くに人もいなかったから、見られる心配はない。
思う存分アランくんの真似ができる!
「――まさか。僕は無傷だよ(キリッ!)」
アランくんアランくんアランくんアランくんアランくん!
ボクよりも、たぶんドロシアよりも、アランくんの方がずっと強い!
「――いいや、全属性使える(キリッ!)」
あんな風に魔法を何でも使える人は初めて見た!
ボクもアランくんみたいになりたい!
「レスター、お見舞いに来たのだけど……」
「ひっ?!」
興奮していたボクは、聞き馴染んだ声を聞いて我にかえる。
「どっ、ドロシア……! いつの間に……!」
「ふわぁ……」
ボクのことを見ながら大きくあくびをするドロシア。
「さっきまで眠っていたの。私の試合はいつになったら始まるのかしら」
「い、いやぁ……もう一回ぐっすり眠らないと始まらないと思うよ。だって――」
「まあいいわ」
ドロシアは半開きの目を眠そうに擦りながら、ボクの話を遮る。
「……それで。レスターはさっきからずっと何をしてたの?」
「うっ」
やっぱりバレてた……。
「面白かったから、そのまま続けてちょうだい」
「や、やめてよ……っ!」
……とりあえずは、上手いこと誤魔化せそうか探りを入れてみよう。
「……あ、あの、えっと……どこら辺から見てたの?」
「――このままじゃ、ただの弱い者いじめになっちゃうだろう? と言って、カッコいい感じのポーズをとっていたところからよ」
「うわあああああああああああああッ!」
最初からだ! 絶対に誤魔化せないじゃん! すっごい恥ずかしいっ!
「まあ、レスターもそういうお年ごろだものね。深くは追求しないわ。……優しいお姉ちゃんに感謝しなさい」
「うぅっ……」
さっきいじめられていた時よりもずっと惨めな気分だ……。
どうしてボクはアランくんみたいにカッコよく決まらないんだろう……。
「とにかく、元気そうで良かったわ」
ボクが元気をなくして落ち込んでいると、ドロシアはそう言って微笑みかけてきた。
「う、うん……」
「『僕は無傷だよ』とか何とか、さっき言っていたものね」
「……………………」
悪魔だ。悪魔がボクの目の前にいる。
「……そう怖い顔をしないで。心配しなくても、レスターの仇は私がとってあげるわ」
「え……?」
「アラン・ディンロードとは、ぜひ一度お話ししたいと思っていたの。最低最悪のクズ野郎だと聞いているから」
「………………っ!」
絶対にあり得ない。そんな話、一体誰から聞いたのだろうか。
「――私がアランを倒すわ」
突然、ボクの前に握り拳を突き出してとんでもないことを口走るドロシア。
いつになく目を見開いている。本気みたいだ。
「ち、違う! アランくんは――」
「辛い記憶を無理に話そうとしなくてもいいわよ。……それじゃあ、行ってくるわね」
「ま、待ってよっ!」
引き止めようとするボクをよそに、ドロシアはそそくさとカーテンの外へ出て行くのだった。
「ドロシア……。行くって、どこに?」
そもそも、女子の部は明日やるんだよ……? 君は絶対にアランくんとは戦えないんだ……。
「い、色々と誤解してるみたいだし……伝えに行った方が……いい、よね……?」
仕方なく、ボクはベッドから起き上がってドロシアの後を追いかけることにした。
「ドロシア……ボクと同じでちょっとだけ抜けてるんだよなぁ……」
だから、いつも二人そろってお父さまとお母さまに心配されるんだ……。
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