第13話 規格外の魔術師
悪ガキその一の頬を掠めた
「あ、ああ……!」
自分の頬を伝う水滴を血と勘違いして、その場で腰を抜かす悪ガキその一。
「うそだろ……」
「こ、ここのっ、かべっ、あ、穴なんてあいてたっけ……? あ、あはは……」
「僕が今あけたんだよ」
沈黙が辺りを支配する。
「当てるつもりだったのに外しちゃった」
俺は、悪ガキどもに向かってわざとらしくそう言った。
「ば、ばばばば、ばけもの……!」
放心状態で呟く悪ガキその二。
「心外だなあ」
俺は右手で二発目の
「そそそっ、そんなの当たったら……死んじゃうよぉ!」
泣き叫ぶ悪ガキその三。だが今度のやつは無詠唱な上に威力もかなり抑えてあるから、当たっても無傷だ。水鉄砲で撃たれたくらいの衝撃しか感じないだろう。……たぶん。
「僕は優しいから安心して」
「う、うわああああああああッ!」
怖がらせすぎたのか、悪ガキのうちの一人が泣き叫びながらその場を逃げ出す。
「ま、待てっ! うわああああっ!」
「おいてかないでえええええええっ!」
「びええええええええんっ!」
「ぎゃあああああああああっ!」
「ごめんなざいいいいいいいいいッ!」
すると、他の悪ガキ達も次々と逃げていった。
「あれ? どこ行くのみんな?」
俺は、逃げる子供達の背に次々と威力控えめな
「ぎゃっ!」「うぐっ!」「ひっ!」「うわああああっ!」
攻撃されたショックで、その場に倒れ込み意識を失っていく子供達。
おかしい。いじめられっ子を助けているはずなのに、これではどちらが悪者なのか分からない。
「逃げないでよ」
……けど楽しいからやめられないぞ! そういえば、弱いものいじめが好きなのはアランも同じだったな。どうしよう。興奮しすぎて闇堕ちしちゃう。
「や、やめてください……っ!」
その時、ぼろぼろのレスターが俺の前に立ちはだかった。
「ぼ、ボクはもう……大丈夫ですから……っ!」
自分を足蹴にしていた奴らを庇うとは、とんでもないお人良しだな。でもおかげで我にかえったぜ。闇落ち回避!
「でも、その、助けてくれて、ありがとうございます……」
「レスターくん……」
「え……? ボクの名前……どうして知ってるんですか……?」
するとその時、レスターが上目遣いで問いかけてくる。
「………………さあ?」
赤紫色の髪に赤い瞳。小柄かつ女顔の美少年。……なるほど、幼少期はこんな可愛らしい姿をしていたのか。
魔人と化した後でも一応は中性的な美少年だったので、予想の範囲内だ。
原作だと「素晴らしい……! 命が爆発する瞬間ほど美しいものはありませんねぇ……!」とか言ってたからだいぶキャラは違うけど。
「前に会ったこと……ありましたか……?」
まずい。いきなり名前を呼んでしまったせいでものすごく不審に思われている。適当にはぐらかさなければ。
「どうでもいいじゃん、そんなこと」
「よ、よくありません……っ!」
「それより、どうして何もしなかったの? さっきの子達よりレスターくんの方が強いのに」
「………………」
レスターは足元を見ながら、ゆっくりと口を開く。
「だって……しちゃい……ますから……」
「しちゃう?」
「ぼ、ボクが魔法なんか使ったら……みんな殺しちゃいますから……っ」
なるほど。面白い答えだ。
*
それから少しして、いよいよ『力比べの儀』が始まる。
「おにーさまー! がんばってーっ!」
観客席の最前列にいるプリシラの声援が聞こえてきた。
さっきはあんなに泣いていたのに、随分と元気だな。
かわいい!
「ど、どうかお怪我をなさらないように……気をつけて下さいっ!」
すると、今度は不安そうなニナの声が聞こえてきた。
怪我をしないように……か。それはなかなか難しい注文だな。
……やれやれ。
俺は苦笑しつつ、一回戦目の対戦相手であるレスターに向かって木剣を構えた。
「さっきぶりだね。よろしく、レスターくん」
「は、はい……」
試合のルールは簡単で、使っていいのは木剣と初級魔法のみ。先に降参するか、体力が尽きて動けなくなった方が負け。
俺としては物足りないが、このくらい縛らないとマジで死者が出る可能性もあるので仕方ないな。
「こっちはいつでも大丈夫だよ」
「ぼ、ぼくも……だいじょうぶです……っ!」
お互いの準備が整い、合意が成立する。
「全力でいくよ」
試合の開始を告げる笛の音が聞こえると同時に、俺はレスターの懐へ踏み込み、木剣を振り抜いた。
「ぐっ」
レスターはぎこちない動きで攻撃を防御する。
「わあああああッ!」
しかし、そのまま衝撃で吹き飛び、観客席の手前に貼られた魔術による結界に激突してしまった。
「よ、弱い……!」
俺は思わずそう呟く。案の定、剣術の方は苦手のようだ。
ちなみにこの世界の人間は頑丈なので、子供同士が木剣や初級魔法で戦ってできた程度の傷なら一晩眠れば概ね完治する。派手に吹き飛ばされて壁にぶつかってもおそらく大丈夫だ。
流石はRPGが元になっている世界。ゲーム的に解釈すれば、威力の低い木剣や初級魔法では大したダメージにならず、宿屋に泊まれば全快するといった感じだろうか。
現実的に解釈するなら、おそらくこの世界の人間の体内に循環している魔力のおかげだ。結局のところ、魔力の量と魔力操作の精度が強さに直結する世界なのである。
「う……ぐぅっ……」
「これじゃあ勝負にならないな」
「………………っ」
「使いなよ、魔法」
「え……?」
俺はよろよろと立ち上がるレスターに向かって言った。
「僕なら大丈夫だからさ」
「で、でも……っ!」
……一つ説明し忘れていたが、木剣や初級魔法で死なないのは、あくまで
何事にも例外は存在する。
並外れた身体能力や無尽蔵の魔力を有する
天才もまた、天才同士でしかまともな試合を成立させることができないのである。
だから、一試合目からレスターと当たれたのは幸運だった。向こうがその気になってくれさえすれば、本気の試合ができる。
「だって、レスターくんより僕の方が魔力の扱い上手いし」
「………………!」
試しに軽く挑発してみると、レスターの目つきが変わった。
「た、確かに……その通りかもしれません……」
「素直に認めるんだ」
「ボクは魔力の操作が下手だから、さっきのキミみたいな手加減とか……できないんです……」
なるほど、だから普段は魔法を使わないようにしているのか。そんな設定があったとは初耳だ。
「必要ないよ。僕の方が強いんだし。このままじゃ、ただの弱い者いじめになっちゃうだろう?」
「――おっ、大怪我しても……知りませんからっ!」
その瞬間、レスターの持っていた木剣が彼の魔力で爆発して跡形もなく消し飛んだ。
「……わお」
どうやら本気になってくれたらしい。意外と沸点が低いな。
「――そう来なくちゃ」
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