鼓動の停止
深夜二時。夜の気配が濃い時間。
「うわー終わったー!!」
男性は座椅子の上でガッツポーズをして炬燵机に倒れ伏した。
「プロットが完成した……長い闘いだった……あとは本編を書き始めるだけ……」
何事かをぶつぶつと呟きながら虚ろな目をゆっくりと瞬かせる。今にも眠りそうな男性の頭上では白色灯が眩いほどに六畳ほどの室内を照らしている。男性の背中にのしかかる眠気を追い払っているようにも見える光だ。
「その前に風呂……いや出だしだけでも書きたい……今何時だ……明日は何時に起きればいいんだ……」
スライムのように机から床へと移動する。その光景はもはやおぞましい異形が移動しているかのようにゆったりとしていて、かつ不気味だ。もしこの部屋に誰かがいたならば悲鳴を上げて外に飛び出していたかもしれない。あるいは心配して優しい手を差し伸べたかもしれない。しかし今この部屋にそんな漫才を演じてくれる相方はいなかった。
「ね、眠い……でも書きたい……風呂……」
うわごとのように呟かれる言葉に理性はない。あるのは原始的な欲望だけだ。それは彼の脳内が今にも動きを止めようとしているからだ。本能的なものとも自己防衛とも言えるもので、彼自身が理性で打ち勝たなければならないものでもある。
「風呂……パソコン……朝……何時……」
オルゴールがゆっくりと動きを止めるように、あるいは海の波がゆっくりと引いていくように、彼の口がゆっくりと止まっていく。
やがてその動きが止まった時、世界は静寂に包まれた。
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