今日の収穫物

 今日はポルルの実が大量に採れたんだ、と幼馴染が持ってきてくれたのは日暮れの頃――空で一等星が流れ始める頃だった。いくら猟師の息子だからといえ、獣たちが蠢き始める時間帯にこんな森の奥深くに届けに来てくれるなんて大人も真っ青なことをするのがこいつらしい。さらにお礼も庭で育てている薬草と交換でいいなんて言うもんだから、俺はいつだって頭が上がらない。


「あ、そうそう。今日旅人から聞いた話なんだけどよ」


 そう言って聞かせてくれたのは南の大陸に不死鳥が現れたという話。なんでも『殺しても死なない』し『口から火を吹く』らしい。どんなおとぎ話の登場人物だよ。


「そんな話、本当か?」

「俺が知るかよ。でもお前、こういう話好きだろ?」


 白い歯を出して笑い、「じゃあな」と駆けていった。手を振ってそれを見送ってから家の中に戻る。片手かごいっぱいに詰められたポルルの実をキッチンに置き、窓際の机に向かう。そこには白紙のパピルスが数枚、無造作に重ねられている。あえて揃えておかないのは自分なりのこだわりだ。俺は一番上の一枚にインクを付けた。


「『殺しても死なない不死鳥の話』、っと……」


 聞いた話を反芻しながらゆっくりと筆を動かす。頭の中にある話に少し脚色を付けながら一遍の物語にしていく。


「――よし、書けた」


 パピルス一枚分の小さな話ができあがった。俺は机の近くに積んである紙束を取る。書いたばかりのパピルスに二カ所穴を空け、紐を通せば完成だ。


「これで五十二か。おとぎ話にしては多すぎるか?」


 手の中にある紙束は重量を持ち始めている。そろそろ新しい束にしてもいい頃合いだな。

 今までに書いた話をぼんやりと眺めていたら、幼馴染のあいつの顔が浮かんだ。いつもあいつは土産話だと言って家に引きこもりがちの俺に異国の話を聞かせてくれるのだ。俺自身そういう噂話が好きだと言っったことはないが、昔からの付き合いのあいつは何かを感じ取っているのかもしれない。でもまさか『噂話をもとにしたおとぎ話を書いている』なんて思ってもいないだろうな。


「さてと、ポルルの実で何を作るかな」


 いつかこの話集を見せた時、あいつはどんな顔をするだろうか。俺は足取り軽く台所へ向かうのだった。

 

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