傍観者は語る

 学校のチャイムより少し重厚な鐘の音が流れる。これは私の会社で昼休憩を告げるチャイムだ。何故チャイムが流れるのか、入社したての頃に先輩に聞いたことがあるが、真相は分からずじまいだった。……そういうことを考えている場合じゃない。時間は有限だ。私はスマートフォンをポケットに滑り込ませ、コンビニの袋と水筒を持って自席を離れた。

 会社を出て約十分。歩いてたどり着いたのは隣町の大通り。昭和初期からの大きな建物が立ち並ぶ風景はいつ見ても壮観だ。まるでタイムスリップしたような気分にさせてくれるところが気に入っている。それに首都圏なのに静かなのだ。もちろん車の往来はある。しかしオフィスビルではなく百貨店が立ち並んでいるおかげか、会社にいるよりも時間の流れがゆっくりに感じる。日常にありながら非日常を感じさせてくれる。そんなところもお気に入りだった。

 この町のもうひとつのお気に入りポイントは、何と言っても歩道近くにベンチが多いこと。おかげで気分転換をしながらピクニック気分でランチを楽しめるのだ。そしてそれは何を意味するかというと、往来する人々を観察しながらランチを食べられるということ。今書いている現代ものの小説の取材にぴったりなのだ!

 おかげでいつもサンドイッチ片手にスマートフォンをいじっている少し行儀の悪い恰好でランチをとることになっている。だって道行く人を間近で観察できるのだから。歩きながらはそれこそ行儀が悪いしマナー違反だし、レストランなんて窓際に案内されるほうが運だ。それよりの確率の高い場所で怪しまれずに行動できたほうがいいに決まっている。そう私と社会は今Win-Winの関係になっている!

 ……おっとこうしている場合ではない。今日も張り切って道行く人を観察しなければ。

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