あの景色をもう一度
朝方六時。薄い蒼穹が広がり、柔らかな陽光が部屋に差し込んでいる。
目覚まし時計にセットした時間よりも少し早く起きた俺は、薄目でスマートフォンの画面を点灯させた。メッセージアプリの通知が数件、SNSからの通知が数件。メッセージアプリのほうは友人からの連絡だろう。昨日途中で寝落ちてしまったから、直前の会話を遡れは問題ない。おおらかな性格をした彼のことだ。「おはよう!よく眠れたか?」なんて返信が届きそうだ。
続いてSNSからの通知を確認する。日常の投稿に関するいいねが数件。そして、次の通知を見て俺はみんまりと笑った。
『あなたの投稿を秋河陽さん他10人がいいねしました
「眠りたくないの」そういって彼女は僕にすがりつく……』
「よっしゃ!」
薄布団を蹴り上げてガッツポーズをする。昨晩寝落ちる前に投稿した掌編小説だった。いつもはいいねがひとつ、ふたつくらいつけば御の字だが、今回の作品はじゅう。夜でこの調子だから今日のうちにもっと増えるかもしれない。自分でも会心の出来だと思っていたから嬉しくてたまらない。今すぐ部屋で踊りたい気分だ。
気持ちが落ち着かなくてそわそわしてしまう。何度も通知を確認してはにやけを押さえるので精いっぱいだ。
俺は文才があるのでは、なんて考えも浮かんでしまう。それくらい気分が高揚していた。
――――――――…………
ジリリリリリリリリリ
聞きなれた目覚ましの音が耳に入り飛び起きた。けたたましく鳴り響くそれを左手で慌てて止める。
短針が七を指す時計、見慣ている雑然とした部屋、わずかに揺れる紺色の遮光カーテンとその隙間から差す白色の陽光を見回した後、再度時計を見る。俺は今まで何をしていた?寝ていたのか?するとあれは、あの光景は――
「…………夢?」
寝ぼけたように発した俺の声はやけに冷えた空気に霧散した。
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