たまには神頼み
夕方に感じる風が幾分かましになってきた。相変わらず夜になると冷えるけれども、春は近いのだと感じる。制服のコートの前を開けてちょっと冷たい風を身体に取り込みながら、私は悩んでいた。明日の授業の課題とか隣のクラスの男子がかっこいいとか、そんな充実した悩みじゃない。
――どうしよう、いい文章が浮かばない。
私的一大事だった。
中学生の頃から頭の中で繰り広げられる創造を文字に書き連ねること三年。こんな悩みは初めてだった。最初はちょっと学校が忙しいからと思っていたけれど、その不安は夜が色濃くなるようにだんだんと私の中を侵食し、ついには確信に変わってしまっていた。誰かに相談しようにも、学校の友達には「小説を書いてるの」なんて話したことないし、周りに小説家がいるわけでもない。学校の先生に話したところで解決する悩みでもない。どん詰まりだった。
深呼吸のふりをしてため息をはく。ふと目に赤い鳥居が目に入った。気分転換にと普段と違うルートで帰っていたからか、いつしか家とは反対方向に歩いていたようだった。
――久々に行ってみるか。
何かに導かれるように赤い鳥居をくぐった。枯れ木に囲まれるようにひっそりと続く石段を一段一段踏みしめるように登っていく。夏は汗だくになるし冬は鋭い風が襲ってくるからこの石段は私にとっての天敵だった。
息を切らしながら何とか登り切った先には小さな鳥居と小さな境内。神社と呼ぶには少し小さい、しかし近所の住人からは愛されている社だ。ちょうどいい気温と時期じゃないとなかなか来る気にはならないけれど、この時間はめったに人が来ないから、私の趣味活動にはぴったりの場所だった。
鈴や賽銭箱はないからお辞儀と拍手だけしてお参りする。
――〇〇町××に住む岩鳥明日香です。今日は小説の執筆にお力をお借りしたく参りました。いいネタがあったら迷わず私の頭に語りかけてください。
再び礼をして近くの石段に腰掛ける。鞄からスマホを取り出してメモアプリを開く。書きかけのいくつかの小説と休み時間にひそかに書き溜めたネタ帳だ。ネタ帳の数少ないストックから一つを選び新しいメモを開く。
――さてと、今日も頑張って書き上げるぞ!神様お願いします!
大きく伸びをして肩をほぐし、それらに向き合い始めた。
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