詩(うた)うように

 耳をじくじくと刺すような夜の音が聴こえる。横たえた身体に広がる倦怠感に身を委ね、手中の電子機器に目を落とせば、じわりと目に痛みが広がった。凍える吐息に晒された指を動かして、淡く発光する画面に数多の文字を紡いでいく。

 一瞬、瞼を閉じて脳裏に浮かぶ幻を見る。幾度となく繰り返されるその儀式は、まるで祈りのように静かでいて無垢な行為のようだ、と思った。ふわりと開いた瞳の奥底には微かに銀河のような瞬きが起こる。そうして再び指を走らせるれば、凍てついた身体も少し火照ってきたような気がした。

 紡がれた文字たちはやがて一つの御伽噺へと変貌してゆく。時に荒ぶる龍のように、時に揺り籠を揺らす微風のように。無限を行くように世界は裾野を広げてゆく。膨大な言葉の数々がこのちっぽけな場所から生まれていくのだから何とも不思議だ。

 瞼の点滅が数を増してきた。ここらが限界だろうと悟った。電子機器を傍に置き、闇の中に沈んでいった。


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