最終章 その三

 ガザラとラグラの東京上陸から、五年後。


 国連は留まるところを知らないガザラの被害に、国連G対策センターをつくばに設置。世界中の叡智を集め、対G専属の軍隊を組織した。


「とは言うものの、予算も設備も微妙。軍隊と呼ぶには中途半端な組織よね」


 国際G対策センターの休憩用カフェテラスでコーヒー片手に来客用のパンフレットを読んでいたロリシカ諜報員のアンナが愚痴る。


「そりゃ、言いたくはないですけどガザラ対策に本腰を入れているのは日本くらいですからね」


 同じカフェテラスで同席して居た藤田は苦笑いしながら幾つかの報告書を手早くファイルにまとめていく。


 五年前、ガザラが核ミサイルから生存した後の世界は果てしない大混乱に見舞われた。核兵器ですら倒せない怪獣を誕生させた責任を、どの国が取るのかでまず揉めた。


 核攻撃を実施したアメリカは、核攻撃の延期を求めた日本に責任があると叫んだ。日本はサンズ・オブ・トリニティの事件に関わった全ての国に責任があるのでは、と主張した。そしてロリシカがアメリカによる怪獣誘導作戦を暴露し、アメリカはロリシカを始めとした地球防衛軍に資金提供した全ての国家の名前を公表した。ロリシカだけでなく国連の常任理事国の内の幾つかも資金提供していた事が暴露され、先進国を中心に国家の信頼は地に落ちた。


 国連G対策センターの創設と、そこに全ての国家が予算と人員を出すと言う形で責任を取ろう。日本の発案でようやく責任転嫁を繰り返す国際的醜態は終わり、何とか国際社会の形は残せた。


 自衛隊から国連G対策センターの戦闘部隊に配属された藤田は、そこでロリシカからセンターに出向してきたアンナと再会した。まさかアンナが本名だとは思いもしなかったが。


「ガザラ対策センターなのに、この五年間ほとんどガザラと戦ったケース無いけどね」

「………怪獣兵器開発を世界中が進めて居たわけですしね。成功例はまだ無いですけど」

「何をもって成功とするかは微妙なところだけどね。ガザラの様な怪獣を作れた事を成功と言うのか、完全にアンダーコントロール化においた怪獣を作って成功なのか」


 五年間の間、ガザラは目撃こそされど上陸した事は無い。故に国連G対策センターの役目は各国が極秘に進める怪獣兵器開発の摘発がメインだった。殆どは超短命だったり、不気味なキメラでしか無かったりと、怪獣と呼べるほどの生命を生み出したと言う実績は無い。


 だが、ここまで無秩序の怪獣兵器開発が進めばまたいつかガザラの様な怪獣が産まれるかもしれない。そうならない為にも国連G対策センターは戦い続けなければ。


「あら、ご一緒でしたか」

「藤田君、あんまりこの人と仲良くするのはオススメしないがね」


 その時、カフェテラスにミサとドクターマトンが姿を見せた。この二人も科学技術部門の人員としてG対策センターに所属していたのだ。


「あら、怪獣より野蛮な科学者様のお出ましね」


 ドクターマトンとアンナの仲の悪さは同僚になっても変わらないままだ。


「余りここで喧嘩なさらないで。それより、藤田さんとアンナさんの部隊の正式名称が決まったと聞きました」

「ええ。対ガザラ専用特殊空挺部隊。Attack-Ennemy-of-Gazara-Inhibition-Safetyの頭文字をとって、イージスチーム。皆さんが解析して実用化したG-ガソリンを利用した最新鋭エンジンを搭載し、ラグラの骨から出来た鋼で作られた世界最強のVTOL戦闘機、イージスアローを正式採用した対怪獣チームとして再編されました」

「藤田君はイージスアローのメインパイロット。私は後方支援。ガザラに勝てるかどうかはともかく、少なくともこの施設にアメリカ空軍の精鋭チームが攻めて来ても返り討ちに出来るわ」

「ロリシカ空軍の精鋭チーム、の間違いじゃ無いかな?」

「両方同時に攻めて来たとしても同じ事よ」


 イージスアロー。全長十五メートルの幅さえあれば滑走路無しでどこへでも離着陸が出来る上に、最高速度はマッハ10で航続距離も十万km。搭載している火器も従来の倍以上の火力で、計算上は五年前のガザラの甲羅も貫通出来る。らしい。今は不明だが。


 藤田は世界で今のところ、予備も含めて五機しかない超貴重な戦闘機の正規パイロットに選ばれた栄誉に感激しつつも、いつかまた現れるであろうガザラとの戦いに勝てるかどうかの不安は拭えなかった。


「研究はこれからも進めて行きます。今年中にはイージスアロー専用空母のロールアウトも完了しますわ。直接ガザラと戦う藤田さん達の助けになれば………」

「………大丈夫です。きっと。だって俺たちは対怪獣防衛チームですから」


 子供の頃にテレビで憧れた、怪獣から人々を守る防衛チーム。それがまさか実現して、そこに配属されるなんて思っても見なかったが。


 その時、国連G対策センターの非常サイレンが鳴り響いた。


『総員、第一種警戒体制』


 ガザラの活動が物理的以外の科学、地質、気象、精神など、いかなる場合でも確認された場合に発せられる警報だ。太平洋のどこかで、ガザラが動き始めている。


「イージスチーム、出動準備!!」

「それじゃあ桐島博士、ドクターマトン。また」

「ガザラが来ないか、死ななかったらまた会いましょう」


 それだけ言い残し、藤田とアンナの二人はカフェテラスから走り去る。残されたミサとドクターマトンは結局コーヒーを飲めなかった事が少し心残りではあったが、二人もまた科学技術局へ向かう。


『第二種警戒体制!!』


 ガザラの活動が声、動きなどで物理的に確認された場合の警報だ。太平洋に巨大な影が現れる。そしてそれはゆっくりと日本に向けて動き出した。


『第三種警戒体制!!』

「きしゅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」


 太平洋の洋上にその姿を現したガザラ。ガザラ出現が確認された事で、国連G対策センターの緊張は更に高まる。


「パイロットはイージスアローに搭乗せよ。出撃準備」


 パイロットスーツに着替え、自分用のイージスアローの元に向かう藤田。新品のイージスアローは整備班達の総力を持って整備されており、ヘルメットを持ってきたアンナが藤田に手渡す。


「生きて帰って」


 その言葉と共にアンナは藤田の頬にキスをした。


『第四種警戒体制!!ガザラ、浜岡原子力発電所に向けて進行している模様!!』


 G対策センターが想定する最悪の事態。ガザラが日本のどこかに上陸する事が確実視された場合を想定した警戒警報だ。


「イージスアロー各機発進!!」

「一号機、藤田!発進します!!」


 三機のイージスアローが発進し、太平洋に向かって出撃する。人類対ガザラの戦いはここから始まるのだ。

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