第六章 その六

 大戸島。ガザラとラグラはもはやお互い満身創痍でありながらも歩みを止めなかった。あと少し、もう少しでこの世界で唯一の彼らの餌に手が届く。


 ガザラの甲羅やハサミはもう再び生えてくる事は無く、ラグラも骨から浸み出す再生液は分泌されない。どちらも激しい戦いでエネルギーを使い果たし、歩く事しか出来ないのだ。


 ありとあらゆる人類の抵抗を寄せ付けず、ひたすらに戦い続けた二体の大怪獣。しかしいくら彼らであっても、飢えを前に抵抗などできない。


 残りの最後のエネルギーを振り絞り、最後の餌を食べた方が勝つ。ガザラもラグラも同じ事を考え、大戸島の中心の盆地に急ぐ。そこには微量ながらも特殊な放射線を放つコアが放置してあり、これをどちらかが食べれば少なくとも目の前の瀕死のライバルを倒せるくらいのエネルギーは回復するだろう。


「きしゅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………っっっ!!!」

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん……………っっっ!!!」


 ガザラは足を引き摺り、ラグラは後ろ足で地面を蹴って這いつくばりながらコアへと向かう。


 まだ死んでなるものか。生き延びねば、食わねば。その一心で二体は足を動かす。


 そしてそんな彼らの頭上に、アメリカから発射された核ミサイルが落ちて来た。


 まず初めに、光。そしてドーン!!


 万が一にも放射能の影響を受けない様にと遠く離れた洋上のイージス艦から大戸島のある方向を見ていたミサとドクターマトンにも、それは見えていた。


「ピカドン………」

「ヒロシマ、ナガサキ。そして遂に、三度目の過ちを犯してしまった。何が人類の未来のためにだ………!!」


 灰色のきのこ雲が遥か水平線の向こうに立ち上り、その下には3000から4000度の高熱がありとあらゆる物を焼き尽くし、溶かし尽くす。生物の身体を構成する蛋白質が原型を留められる筈もなく、大戸島に残されていたあらゆる動植物が、その存在の痕跡すら残す事なく消失していく。


 ミサはそのきのこ雲を前に、思わず涙を流していた。赦してほしい、などと口が裂けても言えはしない。それほどまでに罪深く、赦されざる行為だった。


 ドクターマトンも思わず知らず懺悔の姿勢を取り、その場にいた海上自衛隊の隊員達も、そしてその中継を見ていた世界中の人達全員が言葉を無くして立ち尽くしていた。


「核ミサイルの着弾を確認」

「そうか………」


 首相官邸のデスクでその中継を見ていた総理もまた、作戦の成功を喜べるはずも無かった。そしてそれはアメリカのホワイトハウスも同じ。誰も歓声など上げず、ただただきのこ雲を見つめる事しか出来なかった。


「………日本の総理の責任を果たさなければな。記者会見の準備が整い次第、会見を開く。公安にガザラとラグラのサンプルの保護を………」

「総理!!たった今、現場から報告が!!」

「どうした?」

「大戸島近郊の放射線レベルが、急激に下がっています!!」

「なんだと!?」

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