第六章 その四

「ガザラ及びラグラ、大戸島に向けて海上に浮上しつつ進行中」

「ラグラの方が先に到着しますが、傷の回復を優先してか移動速度に左程違いはありません。14時には、2体とも大戸島に上陸するでしょう」


 海上自衛隊のイージス艦『つぶらや』。学術班代表として、大戸島を観測するこの艦への乗船を認められたミサとドクターマトンは、観測用のドローンから送られてくる大戸島の映像を食い入るように見つめていた。


 大戸島。小笠原諸島の端、他の島からは遠く離れた無人島。1954年までは島民が家畜と共に暮らしていたが、台風の上陸によって壊滅的被害を受けて島民の殆どが行方不明に。その後、僅かな生き残りも本土へ移り住み、島固有の動植物も確認されていない。まさに忘れ去られた島だ。


 この島のちょうど中心にコアが安置されており、米軍の核ミサイルの照準も既に定められている。


『ただ今午後13時50分。東京、そして常滑市に甚大な被害を与えた世紀の大怪獣ガザラ、そしてラグラは、太平洋の大戸島へとゆっくりと近づきつつあります。自衛隊の総力を上げた誘導作戦は無事成功。後は、アメリカ軍の核ミサイルがガザラとラグラの命を焼き尽くす事を祈るばかりであります』


 テレビ中継が大戸島に近づいて行くガザラとラグラの望遠映像と共にアナウンサーの実況を流す。YouTubeなどの各種動画投稿サイトにSNSも盛り上がりを見せ、世界中の視線が大戸島へと向けられていた。


『今、ラグラが大戸島に上陸致しました。ガザラとの戦いの数は完全には癒えていないのか、非常にゆっくりとした動きです。あ、ガザラです。ガザラも今上陸しました。米軍のステルス戦闘機を落とす代わりに失ったハサミは、まだ小さいですが再生しつつあります。何という生命力でしょう』


 港跡に上陸するラグラと、砂浜に上陸するガザラ。双方共にお互いの存在を、餌にありつく前の最後の障害として睨みつける。


 木々を薙ぎ倒し、ゆっくりとガザラがラグラに向けて歩いて行く。ラグラは口内レールガンのエネルギーを溜めつつ、かつての漁村の跡地を踏みつけた。


『今、ラグラが口からビームの様な物を発射しました。ガザラの右肩の甲羅が吹き飛び、苦悶の雄叫びをあげております。あ、今度はガザラが液体を吐き出しました。触れると爆発する液体です。ラグラ、それを躱しきれず右前足が焼けました。これはどちらも痛そうです。苦悶の叫びが画面越しに伝わってくる様です』


 爆破でうまく動かせない右前足を引き摺りながら、ラグラが島の中心に向けて歩き出す。ガザラもそれを追い、右肩の甲羅の破片が砂浜に突き刺さった。


『痛々しい光景です。どちらも既に限界が近い様子。しかしこのまま進めば、核ミサイルの着弾位置まであと少し。我々人類史上最大の脅威の最期が近づいています』


 どこか同情的な口調のアナウンサーの声に、誰も異論を唱える事は無かった。

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