第六章 その二

 コアを乗せたC-130は一直線に更地と化した新橋駅方面に向けて飛んでいた。周囲には護衛用のアパッチが三機、上空にはF-16Jが哨戒している。しかしこれでもガザラとラグラの遠距離攻撃を受ければ、避ける事も防ぐこともできない。全くの無力だ。


 しかしそれでもやらなければならない。幸いなことに、ガザラもラグラも激闘と米軍の爆撃機の迎撃で流石に体力を消耗している。ガザラに至っては右手のハサミの再生はまだ間に合っておらず、隻腕のままだ。ただ、ラグラもあちこちの傷が塞がっておらず、息が切れているのか激しい呼吸音が響き渡る。


「二体の誘導を開始する。コアの吊り下げを開始!」


 即興で備え付けられたワイヤーの先で、固定されたコアが放射線を垂れ流し始めた。


 ガザラ、そしてラグラが思わず顔を上げる。視線の先には当然、コアを吊り下げた輸送機が。


 二大怪獣が歓喜の声をあげ、我先にと動き出す。ガザラもラグラも既に大きなダメージを負っていて、エネルギーを補給さえすれば目の前の敵を倒せると言う確信を得ているのだ。


「ガザラ、ラグラ。どちらも反応しました!コアの核エネルギーに反応した模様!」

「腹を空かせているなら好都合だ。このまま大戸島まで誘導せよ!!」

「了解!!」


 C-130が僅かに速度を上げ、ガザラとラグラの目が機体とコアを見つけて歓喜の声を上げた。


「目標が輸送機を目視した!遠距離攻撃に注意せよ!」

「注意しろって言ったって…………!!」

「ラグラが口内レールガンの発射準備に入りました!!」


 ラグラの背鰭に稲妻が走り、口の中にエネルギーが溜まっていく。照準は当然ながら輸送機だ。


「ラグラに攻撃を開始!!」


 日本各地から集まった自衛隊の戦力が、一斉にラグラにミサイルを叩き込む。顔に背鰭に首元など、事前に示し合わせた効率的な攻撃ではなく、とにかくありったけの火力を叩き込んでいく。


 ラグラの体が爆発で揺れ、口内レールガンがあらぬ方向へと飛んでいく。そしてまた、ガザラが残った左のハサミでラグラを突き飛ばし、反撃に転じたラグラがその左のハサミの付け根に噛み付いた。


「今のうちに東京湾方面へ!!」


 輸送機は二体の脇をすり抜けて東京湾へと向かって行く。ガザラとラグラはどちらもそれを見ていた。


 ラグラは全身に稲妻を走らせ、牙を通じてガザラに電流を流す。感電したガザラが悲鳴を上げるが、今度はガザラも全身の温度を急上昇させ、ラグラの口の中が焼けてしまった。ラグラは悲鳴を上げて口を離してしまい、その間にハサミを引き抜いたガザラは尻尾でラグラをぶっ飛ばした。


 吹き飛んだラグラが悲鳴を上げる。しかしラグラを吹っ飛ばしたガザラもまた、感電のダメージで動きが鈍い。


「このまま大戸島までコアを移送します!」


 輸送機が東京湾上空を飛び去って行き、ガザラとラグラはダメージの残る体でそれを追いかけて行く。しかしこれ以上の戦いはお互いに無理と判断したのか、二大怪獣は距離を置いたまま東京湾に沈んでいく。


「ガザラ、ラグラ。共に輸送機を追って大戸島方面に移動を開始」

「決着は、大戸島まで延期だな」

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