第六章 終息の地、大戸島
第六章 その一
「あの二体の悪魔をこの地上から一刻も早く消し去るべきだ。我々にはその力がある」
「御言葉ですが大統領。核兵器を使用すればガザラとラグラだけでなく東京都全域に被害が拡大します。この官邸、国会議事堂を始め、日本の国体維持の為に必要な施設のほぼ全てが使用不可能になる。奴らが東京に居るうちは核兵器使用の容認は出来ません」
官邸のスクリーンに映し出されたアメリカ大統領との緊急リモート首脳会談は、最悪の形で停滞していた。
「これは地球全体の話だ!!あなた方日本の立場には同情するが、もはやあの二体を抹殺する事は全てにおいて優先するべき事案だ!!」
アメリカ大統領は額に脂汗を滲ませ、何度も何度も机を叩く。しかし、そもそもアメリカが日本にガザラとラグラが来るような誘導したのではないか、と言いたい気持ちをグッと堪え、総理は落ち着いた口調を心がける。
「あの二大怪獣の退治を最優先事項とする事には同意します。しかしこちらも確実性の高い誘導プランの目処が立っています。東京への核攻撃の前に、より被害の少ないプランへの変更を検討して頂きたい」
「総理、悪いがあの悪魔達を東京から移動させる事自体を世界は許さない。今、世界が見守る中であの悪魔達を人類の叡智が焼き尽くす姿を見せなければ、世界中の人々は安心出来ない。それに何より、東京を犠牲にあの二体を核攻撃で倒したと言う事実が無ければ、戦後の援助は期待出来ないぞ」
「世界中継なら無人島でも出来ます。大戸島も東京都に所属している。どうしても核を東京に落としたと言う事実が必要なら、大戸島でも充分では?」
「…………」
半分屁理屈なのは理解しているが、それでも堂々と言い放つ総理の言葉に大統領も一瞬怯む。
ガザラとラグラを生み出した責任を全て日本に押し付けて、その上で東京を核攻撃して責任を果たしたと言う形で終わらせたいアメリカ政府。だが、この筋書きを受けてしまえば日本は二度と再起出来ない。そこまで狙っての筋書きなのかは分からないが。
「勿論、貴方たちアメリカの立場も理解している。こちらの要望を一方的に聞いてもらおうとは思ってはいない」
「だが、今の日本に何が出来ると言うのかな?」
「今現在の東京、そして常滑市で回収したガザラとラグラの生体組織サンプルだ。城南大学で放射性物質除去研究を進めている。この二つの研究成果の共有でどうだろうか?」
「…………」
ガザラの驚異的な生命力とパワー、そして超指向性爆破液は、完全に制御し再現出来れば石油以上の次世代エネルギーとして期待できる。
そしてラグラの傷口を再生させてしまう蛋白質性の液体も、口内レールガンに利用した骨も、どちらも人類が有効活用出来ればどれだけの価値があるか。
「サンプルは全て東京で保管している。核攻撃の巻き添えになって焼却されれば、『貴方達』はあの無尽蔵の生命力を有効活用するチャンスを永遠に失うだろう。核攻撃そのものはもう止められないのなら、二体を大戸島に誘導後に核攻撃で手を打ってほしい」
「…………良いだろう」
もしも東京に核を打ち込むのなら、日本の何処かにある怪獣のサンプルをアメリカ以外の国に渡して援助を求める。言葉にはしなかったが、その脅しはしっかりと大統領には伝わった。
苦々しい顔を隠そうともせず、大統領は東京都心への核攻撃指令書を破り捨てる。
「大戸島への誘導に関しては我々は関与しない。日本が責任を持って誘導してほしい」
「良いでしょう。誘導完了後にまた」
お互いに睨み合い、総理と大統領の緊急リモート首脳会談は幕を閉じた。総理は思わず椅子に背中を預け、聞いていた閣僚達が思わず頭を下げる。
「お疲れ様です」
「…………ふふ。一度、大統領のあんな顔を見たかったんだよ」
恐らく今後は日米交渉は大幅にやり辛くなるだろうが、それでも総理は後悔していなかった。
「後で緊急の記者会見で発表するが、ここで宣言しておく。ガザラとラグラへの核攻撃がどんな結果に終わっても、災害特別法案の可決後に私は辞任する。後は任せたぞ」
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