第五章 その五

 ガザラとラグラの戦いは、次第に新橋駅方面へと戦場を変えていった。双方の巨大な足で踏み荒らされ、爆破液とレールガンによって粉々にされたコンクリートの破片があちこちに散乱している。


「きしゅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」


 ラグラの胴体に再度ハサミを突き刺したガザラが、力の限りをもってラグラを投げ飛ばす。ラグラの巨体は新橋駅のホームに叩き込まれ、新橋駅は一瞬にして瓦礫の山に変わった。


 ガザラはそこに超指向性爆破液を吐き出し、僅かに残っていた新橋駅の残骸すらも吹き飛ばしてしまう。だが、ラグラも即座に飛び起きて走り出して爆破から逃れると、パナソニック東京汐留ビルディングをまるで幕のように突き破って走り去る。


 そのまま海に逃げるかと思われたが、ぶち壊しながら東京高速道路に沿って回り込み、電通グループ本社ビルを足場にして飛び上がった。ラグラの体重に耐え切れずに倒壊していくビルだが、一瞬足場になればそれで十分だったのだろう。そのまま汐留シティセンターの屋上に着地し、さらにそちらが崩れる前に飛び上がる。そして追いかけて来ていたガザラに飛びかかり、そのまま全体重を込めて押し倒した。


「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっっ!!」


 全身に稲妻を走らせ、電気を帯びた前足を叩き込むラグラ。感電と衝撃にガザラが思わず悲鳴を上げる中で、ついに東京上空に米軍の爆撃機が飛来した。


「目標を確認。これより爆撃する」


 もはや日本政府に対しては、許可を求めるのではなく通達だけをしてB‐21が二機、一斉に空爆を開始する。落とされた大量の爆弾がまずラグラの背中に直撃し、これまでとは段違いの威力の爆破にラグラが怯む。そしてその隙をついてラグラを振り払ったガザラの頭頂部にも爆弾が落ち、ガザラの上半身が爆炎で包まれた。


「焼き払え。細胞の一片たりとも残すな」

「了解」


 ガザラとラグラのバトルフィールドと化した新橋駅一帯を包み込むようにして、五秒間隔の空爆が一分以上続けられる。鉄筋コンクリートが溶け、僅かに残った建物が吹き飛び、地面が抉り取られる。地下鉄は崩れ、新橋駅一帯のありとあらゆるライフラインが燃え尽きていく。例えガザラとラグラによって蹂躙される運命だったとしても、つい昨日まで当たり前にあったものが跡形もなく消えてしまう。


「こんなことを、また東京で………」


 総理が思わず目を伏せる。例えこれが世界のためであっても、例えこれが直接巻き込まれる国民が居ないとしても。本当なら許されるはずの無い行為だったはずなのに。


「総理!ガザラとラグラの活動が著しく低下していますわ!!」

「爆破で観測しづらいが、確実に二体の動きが鈍くなっているぞ」


 ミサとドクターマトンがパソコン越しに二体の動きを観測し、せめて効果はあったのだと総理に伝える。これであの二大怪獣の動きを止められなければ、一体何のためにここまで苦しんだというのだろう。


「このまま倒れてくれればいいんだが………」


 しかし、ドクターマトンは心の奥底では嫌な汗が背中を流れていることに気づいていた。これまでも、ガザラとラグラはそんな言葉をあざ笑うかのように反撃してきたのだ。今回ももしや………


 そして決して口には出せないその嫌な予感は、ほんの僅か数秒後には現実になってしまった。


「ラグラから高エネルギー反応探知!!」

「爆撃のエネルギーじゃないのか!?」

「いえ、違います!!これは………口内レールガンのエネルギーをチャージしています!!」

「ガザラからも、別のエネルギー反応を感知!!何かしらの遠隔攻撃を行う模様!!」

「まさか………!!」


 爆炎の中で、爆発とは違う何かの光が瞬いた。

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