第五章 その三

 お互いに叫び合い、ガザラとラグラはそれぞれの口から遠距離攻撃を放つ。ガザラの超指向性爆破液がラグラ目掛けて飛び散るが、ラグラの口内レールガンの方が当然ながらずっと早い。


 超指向性爆破液を掻き分ける様にして飛んだレールガンがガザラの頭部に直撃してダメージを負うが、拡散された事で広範囲に爆発の影響が出てラグラが怯む。それどころか視界を塞がれた瞬間を逃さず突撃したガザラのハサミがラグラに迫り、ラグラもまた後脚で立ち上がって前足で迎え撃った。


 二大怪獣の正面衝突。交通事故などとは比べ物にならない衝撃波で辺り一面の建物が一斉に崩れる中、僅かに力負けしたガザラが怯む。ラグラはその隙を逃さず口内レールガンを近距離で連発し、ガザラの甲羅のあちこちにヒビが入った。


「きしゅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」


 だがガザラも負けじとハサミを突き出し、ラグラの胴体に突き刺さる。更にそのハサミが突き刺さった所からじゅぅぅっ!と肉の焼ける音と煙が立ち上る。ガザラは体温調整機能を使ってハサミの温度を肉が焼ける程また上昇させたのだ。


 たまらず前足でガザラを突き飛ばして距離を置くラグラ。しかし焼き付けられた傷口は再生液を分泌させても再生できず、大きな傷口が出来てしまった。


 その光景をスクリーン越しに見ていた総理達は、これまで自衛隊の総力ですらなんとも出来なかった二大怪獣の傷に思わずため息を漏らした。


「ガザラ、ラグラ。双方の負傷を確認」

「ここでキリシマプランが正常に実行出来ていれば、或いは…………」


 ある意味希望的観測だと言う事は理解しているのだが、今奴らが居るのが東京のど真ん中でさえなければ、今すぐ空爆でガザラもラグラもまとめて焼き払う事も出来たかもしれないのに。そんな事を考えてしまう総理だが、手元に置いたホットラインが鳴り出した事で脳裏に嫌な予感がよぎった。


「総理、これは…………」

「アメリカからだ。どんな事を言ってくるか分からんぞ。…………ハロー?」


 とりあえずはコアを今すぐ返せ、とかそれくらいの事であって欲しい。そんな風に思いながらホットラインを繋ぐと、案の定相手のアメリカ大統領はいつもながら高圧的で暴力的なアメリカ英語で話しかけてきた。


『緊急事態につき、挨拶は省略しよう。今回の事件はこちらでも把握している。あの二大怪獣を倒せる最大のチャンスが今だ。日本のキリシマプランの実行を提案したい』

「何ですって!?今ですか!?」

『そうだ。ガザラとラグラ、双方共に傷を負った今こそ集中攻撃で焼き払うチャンスでは無いかな?』

「キリシマプランは非人口密集地、又は無人島へ誘導した上での総攻撃です!!まだ都民の避難完了報告を受けていません!!」

『そのリスクはこちらも承知だ。港区には我々の大使館もある』


 既に大使達は全て避難し終えており、今のアメリカ大使館は人など一人もいない空っぽの状態だ。建物の保護が言い分だとしても、余りにも急な方針転換だ。


『総理、この二つの悪魔は、サンズ・オブ・トリニティに出資した我々の手で倒さなければならない。多少の傷も負う覚悟でなければ国際社会は納得しない』

「貴方達アメリカには何の傷も無い話だ」

『それは一方的なものの見方だ。我々もリスクを払っている。そしてこれはロリシカを始めとする国際連合からの要請でもある』


 総理の目の前が真っ暗になる様だった。

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