第五章 深海獣超常決戦

第五章 その一

 江東区荒川から東京に上陸したラグラは、真っ直ぐ新宿を目指して突き進んでいく。ビルや建物を蹴散らし、時には口から吐く光の軌跡が建造物に穴を開ける。


 もはやラグラを止められる戦力は自衛隊には無く、せめてもの慰めは市民の避難誘導に集中出来ることくらいだろう。


 築地市場を踏み荒らし、銀座の街を我が物顔で突き進むラグラ。


 それに対して、ガザラもまたラグラ目掛けて進行を始めていた。新宿から渋谷へ、そして六本木ヒルズ方面へと進んでいく。


「ガザラ、ラグラの進行速度を測定。会敵予想地点、港区芝公園」

「コアの確保は!?」

「大破した事故車両の中です。防護服を着用しての回収なので、後三十分ほど掛かる見通しです」

「ですが、ガザラもラグラも今はコアよりお互いを目標にして動いています。誘導効果がどれほど発揮されるか分かりません」


 池袋方面で激突するのならまだしも、港区で戦うつもりの動きなら話は違う。本来なら真っ先に飛びつくはずの餌であるコアを無視し、餌を奪い合う宿敵への攻撃を優先している。


「もう我々に出来る事はなにも無い。勝った方が我々の敵になるだけです」


 ドクターマトンの言葉通り、二大怪獣は遂に芝公園で会敵した。


「きしゅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんッッ!!」


 ガザラがハサミを振り翳し、ラグラが背鰭を震わせる。そしてラグラの口に再びバチバチと火花と共に光が集まり、ガザラ目掛けて何かを発射した。


 ズガン、と何かが破裂する音と共にガザラが僅かに体勢を崩す。ちょうど右肩の辺りを何かが撃ち抜いたらしい。甲羅にも傷ができたが、貫通するほどでは無い。むしろ甲羅の硬さに弾かれていたらしく、東京タワーの展望台に何かが突き刺さった。


「アレは…………!?すみません、あの東京タワーの拡大映像を!!」


 ミサの呼び掛けで東京タワーの展望台の拡大映像がスクリーンに映し出される。何か、白い塊の様な物が展望台を抉っているのが分かる。


「もしかしたら、アレはラグラの骨の一部かもしれません」

「骨?」

「ええ。ラグラは骨格すら再生する蛋白質性の再生エキスを骨から分泌します。それを使い、骨の一部を外へ射出可能な口内に蓄える。そしてそれを電磁力制御能力を使い、レールガンの様に射出している可能性があります」


 骨に磁力に反応する成分があるかどうかは不明だが、現時点ではこれがラグラのあの遠距離攻撃に説明がつく唯一の推測だった。それが現実的かどうかはさておいて。


「全く、これまでの生物学のありとあらゆる研究を…………」


 ドクターマトンの心底疲れ切った声も虚しく、映像の中のラグラは何度も口内レールガンをガザラ目掛けて連発する。そのどれもが決定打にはなり得ないが、これまでの自衛隊の総攻撃よりかはダメージを与えていた。


 しかし、ガザラも黙ってはいない。ギロリと目つきを鋭くさせ、全身の関節部から水蒸気を噴き出し始めた。


「あの爆発する液体を吐く気だ!!」

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