第四章 その五

「緊急速報!ガザラ、品川駅防衛線を突破!!恵比寿、渋谷方面に向けて進行中!!また九十九里浜から上陸したラグラ、現在市街地を時速約40キロで東京方面に向けて進行中!!後五分で大網白里市の中心街に到達します!!」

「怪獣の進行予測地域の住民は、慌てず落ち着いて警察、または自衛隊の指示に従い避難してください。また避難指示が出ていない地域の皆様は屋内待機を徹底して下さい」


 二大怪獣の出現から既に一時間以上が経過。ガザラの東京上陸を阻止出来なかった時点で、日本は既に敗北しているに等しい。


 住民の居なくなった品川区では、今も自衛隊による決死の攻撃がガザラに向けられている。


 しかしラグラの方は、ラグラの進行速度が早過ぎて自衛隊が攻撃を仕掛けられるタイミングが無さすぎるせいでほぼ素通りに近い状況だった。


「誘導は成功の様です」


 相模湾洋上に一隻の大型クルーザーが停泊していた。その船に乗っていたのは、地球防衛軍の幹部達だ。最も幹部と言ってもただの過激なテロリスト集団の大元。かつては環境保護を訴えて聖戦に身を捧げた彼らも、今ではその理想に惹かれてやって来た若者達に戦わせるばかり。今もガザラとラグラが上陸したと言う情報を得て洋上に退避するなど、常に自分達は安全圏に引きこもっていた。


「神の獣が東京に神罰を与えに現れた…………我らの理想が遂に実現したのだ!!」


 しかしその自覚すら無い彼らは、リーダーの歓喜の声に恍惚の表情でテレビの画面を見つめるばかり。彼らのその手にはそれなりの値のするウィスキーやワインが握られていて、この事態を引き起こした張本人達であると言う自覚すらもはや疑わしかった。


「いやはや、若い命が地球の為に燃え上がる姿よ!ははは、私たちの若い頃を思い出しますな」

「全くだ!かつてアメリカの発電所を止めに行った時は、三日三晩米兵どもに追いかけ回されたものだ!!」

「ふん!それを思えばたかが車を、それも抵抗の緩い日本で走らせる程度だろう?」

「違いない。ははははは!」


 既に逃げ出した若いメンバーは処刑され、今もなお放射線被曝に苦しみながら車を走らせている若者達を応援するどころか侮る始末。


「随分と余裕ですねぇ」

「ははは!それも全て、貴方達ロリシカの協力あってこそですよ!!」

「ふうん。そう…………」


 潮風に当たっていた美女、アンナが酒の匂いにかすかに顔を顰めつつ姿を表す。


「随分とお楽しみね?」

「貴女のお陰ですよ!こんな上物まで用意してくれるとは!!」

「まぁ、このくらいのアフターサービスはね」


 この船の場所を教えてもらったアンナが用意した酒や食べ物を前に、もはや乱痴気騒ぎと表現するのが一番なくらいの勢いで飲み食いするテロリスト達。アンナはその姿に明らかに冷たい目をしていたが、テロリスト達は全く気づいていなかった。


「まさかここまでやるとはね」

「ははは。ずっと武器さえあればと思っていた事が実現したんですよ!!それに、まさか怪獣まで現れるなんて!!」

「ロリシカが渡した武器のお陰って事?」

「私たちの活動を支援してくれる国は余り多くはありませんからな。勿論、ゼロでは無かったが…………」

「これで本格的にアメリカを敵に回したのよ?これからどうするの?」

「とりあえずはオーストラリアの同志と合流します。日本とアメリカをここまで追い込んだとなれば、パトロンになってくれる国も増えるでしょうとも」


 ワインをグラスに注いでアンナに渡すが、アンナは受けとるだけ受け取って飲もうとしなかった。リーダーがその姿に僅かに違和感を感じた時、不意に気づいた。さっきまでの同志達の大騒ぎが聞こえてこない。おまけに頭の中に、何か霞が掛かった様な感じが。


「悪いけど、貴方達はここで退場よ。流石にこれ以上野放しには出来ないわ」

「な、何を…………何故…………?」

「何故も何も」


 その場にひっくり返ったリーダーを見下ろし、薬の入ったワインをその場で床に投げ捨てる。まさか全員引っ掛かるなんて思いもしなかった。数名ひっくり返ってくれれば御の字、後は懐に隠した拳銃で制圧するつもりだったのだが。


「知らなかったかしら?イエローカードは一枚までなのよ」


 付近に待機していた残りの工作員達が一斉に動き出し、船内のあらゆる食糧と水、そして羅針盤にスマホなどの通信機を持ち去ってしまう。クルーザーの操縦席には爆弾を仕掛け、小笠原諸島などの島には近寄らないルートに固定して船を出航させる。時限爆弾は三時間後に爆発し、薬で眠った彼らが目を覚ます頃にはもうこの船は引き返せない所まで来ているだろう。運良く日本かアメリカの船に発見でもされれば助かるかもしれないが、その時は間違いなく全員極刑だ。


「それじゃあね。さようなら」


 一応記念に写真だけ撮っておいて、アンナは他の工作員達と一緒に別のクルーザーに乗って離脱するのだった。



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