第四章 その四
「東京にガザラ上陸!!現在、レインボーブリッジを破壊しつつ品川方面に向けて進行中!!」
「ガザラの上陸阻止は叶わなかったか………ラグラ捜索を急げ!!ラグラまで逃すわけにはいかん!!必ずここで………」
「艦長!!ソナーに巨大生物の反応を確認!!」
「推定体長100m!!本艦直下水深50mを蛇行しつつ東京方面に移動しています!!」
太平洋を巡視してたイージス艦『せりざわ』がラグラの反応を探知したのは、ガザラ上陸の約五分後のことだった。
「官邸に連絡。ラグラと思わしき反応を探知。魚雷発射の許可を求む」
ガザラ上陸のごたごたですぐに返事が返ってくるかどうかは賭けだったが、思いの外返答は早かった。
「許可する!!何としてでもラグラ上陸を阻止しろ!!」
「了解!!魚雷発射!!」
ラグラらしき反応の移動速度を計算し、直撃コースに向けてアスロックランチャーで対潜魚雷を射出する。数秒の間隔を置いて巨大な水柱が幾つも上がり、やがてそれ以上に巨大な灰色の怪獣、ラグラが海面まで浮上してきた。
「ラグラ確認!!九十式艦対艦誘導弾発射!!」
報告を受けて接近してきたもう二隻のイージス艦と連携し、大量の誘導弾がむき出しのラグラの背中に向けて発射される。以前の上陸時、誘導弾は確かに効果があった。その時以上の火力を叩き込めば、少なくともラグラの行動は抑制できる。その考えあっての一斉射だったが、直撃を受けたラグラは咆哮を上げるばかりで余りダメージを受けた様子はない。
「目標の外皮の損傷軽微。報告にあった再生機能を確認しました」
「誘導弾に耐性ができたのか………?」
「ラグラ、潜航します!!」
「海中に逃がすな!!ボフォース発射!!」
七十一式ボフォース対潜ロケットランチャーが一斉に発射され、十二発の爆雷がラグラに叩き込まれる。これ以上の潜航は難しいと判断したのか、ラグラは再び上昇。海面に再び姿を現すと、再び迫る誘導弾。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!」
その時、ラグラは迫る誘導弾目掛けて咆哮を上げる。その口の中はバチバチと火花が散り、何かが光ったと思った瞬間空中で誘導弾のいくつかが撃墜された。
「ら、ラグラ、口内から何かを高速で射出!!誘導弾が迎撃されました!!」
イージス艦からの報告に、官邸の対策本部の誰しもが自分の耳を疑った。口内から何かを射出し、誘導弾を迎撃した?そんなことはあり得ない。カエルが舌を伸ばして獲物を捕らえるのならともかく、誘導弾を迎撃出来るほどの攻撃能力を持った何か口から出した?
「もう少し詳細な説明を要求する!!一体何を吐き出したというんだ!?」
「わ、分かりません!!ですが、光ったと思ったら誘導弾が迎撃されているんです!!」
「映像、来ます!!」
イージス艦からの中継映像がスクリーンに映る。イージス艦から誘導弾が発射されるたびに、ラグラが迫る誘導弾目掛けて顔を動かす。そして稲妻が走る口を開いてピカッと光ると、誘導弾は空中で迎撃されているのだ。
「桐島博士、ドクターマトン!この現象に心当たりは!?」
「ありません!!」
「アンビリバボー………まさに、怪獣………」
やがてラグラが誘導弾の発射元に視線を向ける。ちょうど、官邸のスクリーンのカメラと目が合う形だった。
「退避しろ!!いや、今すぐ退艦してその場を離れるんだ!!」
総理の言葉も空しく、ラグラの口が開くと同時にスクリーンがブラックアウトした。
「イージス艦『せりざわ』、通信途絶!」
「『やまね』………『かやま』もです!!」
その場にいた残る二隻のイージス艦もまた、通信が途絶した。あのラグラの口から発射された何かが二隻を轟沈させたのだろう。
「ラグラの現在位置は?」
「移動しています。九十九里浜の沖合三十キロの海中を時速約七十キロのスピードで東京に向けて進行中!!」
「あの巨体でアオザメ以上の速度とは………」
「この速度だと、あと三十分以内に九十九里浜に上陸します!!」
「そのまま千葉県を縦断して東京湾入りするつもりか………」
「ガザラ、港区芝浦に上陸!!」
中継映像に切り替わり、上陸したガザラが首都高台場線をぶち抜きながら突き進む様子がスクリーンに映し出される。
「時速約五キロの速度で北東に進行中!!」
「都民の避難状況は!?」
「港区と品川区の避難は完了しています!ですが、ガザラの進行方向の渋谷区、新宿区の避難完了報告は受けていません!!」
「時間を稼ぐ!!市街地だがやむを得ん!!」
「了解!!」
もはや死にに行けと命じているに等しいとは分かっていても、このままガザラの進行を指をくわえてみているわけにはいかない。例え時速五キロでも、四時間あれば東京の端まで到着してしまうのだから。
そしてそれは自衛官たちも同じこと。ガザラ進行阻止の為に出撃する者。渋谷区、新宿区の避難誘導に向かう者。今はそれぞれがやれることをやるしかないのだ。
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