第四章 その三

「ガザラ、東京湾内に浮上!!都心部に向けて移動を開始しました!!」

「何故接近に気が付かなかった!?あれだけの包囲網だぞ!!」


 以前の様な演習を名目にした生温いやり方では無く、海上自衛隊の総力を結集した捜索網はいとも容易く破られてしまった。対策室に入室した総理の悲鳴に近い叫びに、ミサとドクターマトンはある可能性にようやく思い至った。


「総理、憶測で申し訳ありませんが、ガザラの甲羅には電波や音波を吸収するステルス機能の様な生体機能がある可能性があります」

「ステルス機能!?生物だぞ!?何故そんな…………」

「ガザラとラグラが敵対していると言うのは未だ可能性のレベルであり実証されていませんが、ラグラは以前の上陸時に強力な電磁波の様なものを発しています。サメはロレンチーニ器官と言う電流を感知して餌や外敵の動きを探知します。その機能を大幅に強化し、攻撃に転用したのがラグラと言うのが先の会議での結論でした」

「しかし本来の用途である電流探知機能がまだ生きていて、ガザラがそれを把握しているのなら、電波や音波に対する対策を生体として獲得している可能性は十分にありえる話だ。何せ相手はただの生物などではなく、怪獣なのですから」


 ミサとドクターマトンの言葉を肯定する様に、ガザラは高らかに叫び声を上げながらハサミを振りかざして東京へ向けて進行していく。


 スクランブル出撃した空自のF15-J三機が空対地ミサイルを発射。合計六発のミサイルが直撃するものの、前回と違って甲羅にはヒビ一つ入っていない。


「目標の甲羅の硬度は前回よりも確実に上がっている。空対地ミサイルでは歯が立たない」


 前回の甲羅崩しを警戒して距離を取るF15-Jだが、その程度気にするまでも無いと言わんばかりにガザラは進行速度を落とそうともしない。


「飽和攻撃を仕掛ける!SSM1による多段攻撃を開始!!」


 東京の各地に待機していた陸自の野戦特化部隊が、空自から送られてきた観測データを元に弾道を修正。


「第一陣!撃て!!」


 距離からして遠い順に、第一陣、第二陣、第三陣と地対艦誘導弾が発射。東京の空に幾つもの白い飛行機雲が伸び、やがて数え切れない程の誘導弾がガザラに直撃する。


「攻撃の手を緩めるな!!戦車部隊、撃て!!」


 爆炎の中に消えたガザラ。しかしその爆炎目掛けて首都高速湾岸線に陣を敷いた戦車大隊が一斉に砲撃を開始する。


「残弾が尽きた時点で即座に後退!!脱皮攻撃による反撃を許すな!!」


 敢えて通常より少なめの弾数で出撃し、ガザラが反撃に転じる前に離脱する。戦車大隊の砲撃が一通り終わると、今度は空自のアパッチによる空対地ミサイルの飽和攻撃。こちらも反撃される前に可能な限り離脱する。


 だが、ガザラの甲羅には黒炭は付いても傷やヒビは確認出来なかった。


「この短時間で、どれだけ甲羅の硬度を仕上げてきているんだ!?」


 防衛大臣の悔しげな叫びが響く。ガザラは未だにダメージはおろか進行速度を落としてすらいないのだ。


「あれ程の硬度では、キリシマプランも確実性に乏しくなります。やはり、餌であるコアを確保して湾外に誘導するのが…………」

「ガザラが進行を停止!!」

「なんだと!?」

「攻撃が効いたのか!?」

「いや、そんな希望的観測はまだ早い」


 突如として進行を停止したガザラ。当然、それは自衛隊の攻撃が効いたわけでは無く、単にガザラの方の準備が整っただけだった。


「ガザラの甲羅の温度が上昇!」

「脱皮攻撃か!?」

「いえ、甲羅にヒビなどは確認出来ません!!」

「全身の関節部から水蒸気の様なものを噴射!詳細不明!!」

「何をする気だ…………!?」


 総理の言葉に答える様に、ガザラは口をガバッと開く。そして次の瞬間、真っ白な煙を放出した。その煙は一直線に進み続け、上空から接近していたアパッチの機体側面に直撃する。


「水…………?」


 アパッチのパイロットが機体のフロントガラスに付着した大量の水滴に気づいて思わず呟いた次の瞬間。


 バーン!!


「アパッチ三機、撃墜!!」

「何が起きた!?」

「分かりません!!突然、突然アパッチがロスト!!」

「ガザラが可燃性の高い………いえ、爆発する何かを口から放出した模様!!」


 現場の自衛官たちからの報告や、観測手たちの悲鳴にも似た声が響き渡る。その間もガザラは再度砲撃するべくタイミングを伺う戦車部隊の居るであろう首都高速湾岸線方面に顔を向けると、再び全身の関節部から水蒸気を噴き出してエネルギーを溜める。そして口から超指向性爆破液を放ち、首都高速湾岸線ごと戦車部隊はその液体を真正面から浴びてしまう。


 ドーン、ドーン、ドーン!!


 次々と大爆発が起き、首都高速湾岸線があった一帯は一瞬のうちに瓦礫の山に変わってしまった。脱皮攻撃による反撃を警戒して広範囲に展開していた戦車部隊に至ってはもはや跡形もなく消滅してしまっていた。


「バカな………あんな生物が、あれが生物と言えるのか!?」


 町の一区画を、一瞬にしてそこに居た人命ごと跡形もなく吹き飛ばしてしまう。目の前で起きた現実を受け入れられずに思わずドクターマトンの声が震える。その間にもガザラは進行を続け、羽田空港の脇を通り抜けて真っすぐお台場に向かっていく。その間、空自のF15-Jは何度も攻撃を仕掛けるものの、ガザラの進撃は止められるはずもない。


 遂にお台場に上陸したガザラ。ハサミでビルをなぎ倒し、背の低い建物はその強靭な両足で蹴り飛ばしてしまう。そしてついにはセントラル広場へとたどり着くと、一際目立つフジテレビ本社目掛けて超指向性爆破液を発射。発生した大爆発によって、フジテレビ本社はダイバーシティ東京やアクアシティお台場ごと跡形もなく吹き飛んでしまった。



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