第四章 その二
太平洋の別々の海底で眠っていたガザラとラグラは、それぞれ同時に同じ気配を感じ取っていた。
新型核エネルギーによって誕生した彼らにとって、餌となる核エネルギーは代用が効かない。サンズ・オブ・トリニティの核エネルギーでなければ餌にならないのだ。
故に彼らは常に空腹だった。彼らにとって唯一の、そして最後の餌である原子炉を求め続けていた。本来ならマリアナ海溝の超深層で、勝ち残った方が最後の餌である原子炉を吸収し、そのまま餓死する運命だったのだ。
しかし人間が餌である原子炉を地上に持ち去ってしまった。ガザラとラグラの戦いはマリアナ海溝から地上に広がったのは、人間の自業自得でしか無かった。それを自覚している者は地上にどれほどいるのだろうか。
ガザラとラグラはゆっくりと起き上がり、海底から動き出す。進む方向はどちらも東京を目指していた。
「速報です。ガザラとラグラを捜索中のアメリカの原子力潜水艦が消息を断ちました。消息不明のガザラかラグラのどちらかによる攻撃を受けた可能性が高いとの事です」
「先程日本政府は東京に緊急事態宣言を発令。本日正午から自衛隊による都民の緊急輸送を開始すると宣言しました」
「ガザラ、またはラグラが東京に上陸すら可能性は十分に考えられる。日本政府としてはこの最悪の状況を想定して…………」
車のラジオから聞こえて来るニュースを聞きながら、防護服を着た青年が無言で誰も走っていない首都高を走り続ける。車の荷台には放射能漏れを起こしているコアがアタッシュケースに入れられており、例え防護服を着ていても青年の身体は確実に蝕まれている。
青年はハンドルを切って車を代々木PAに入れると、これまた無人のはずの駐車場にもう一人の青年が車と一緒に待っていた。彼もまた防護服を着ていて、既に避難が完了したPAでなければ間違いなく通報されているだろう。
「交代だ」
「分かっている」
コアが発する放射能で怪獣を東京に誘導し、日本の首都機能を完膚なきまでに叩きのめす。地球防衛軍最大の作戦の白羽の矢が当たったのは、彼らのような若い青年達だった。
「体調はどうなんだ?」
「良くは無いな。前の芝浦で交代予定だった奴が居なかったし」
「そうか。アイツ、逃げたんだな」
「仕方ないさ。放射能で死ぬか、先輩達に殺されるか。俺たちに残された道はそれしか無いんだから」
防護服は与えられてはいるが、長時間コアを乗せた車を運転させられれば被爆するのは当たり前だ。故に、この作戦の参加メンバーは必然的に下っ端に任された。幹部たちは皆、地球の為だと感極まった様子で死ねと命じられて顔を青ざめさせていた若い下っ端達を応援した。何故、俺たちだけなんですかと口にした下っ端はその場で反乱分子として処刑された。
「どこで間違えたんだろうな、俺たち」
答えは内心分かっていた。若気の至りや環境保護の為と言うお題目に燃え上がって、テロリストに成り下がった事が間違いだったと。
折れそうな心を無理やり立たせて車のキーを交換する二人。ここで逃げたところで、どうせ放射能で汚染された身体では逃げ切れるわけもない。病院に行っても、何故ここまで汚染されたんだと調べられればテロリストだとバレて捕まってしまう。
それに何より、車のラジオから聞こえてきた最新ニュースが彼らの逃げ場を更に奪ってしまう。
「速報です!東京湾にガザラ出現!!東京に上陸する模様です!!」
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