第三章 その四
「サンズ・オブ・トリニティの原子炉を囮に、ガザラとラグラを太平洋の無人島、又は非人口密集地に誘導。お互いを戦わせ、消耗した所を自衛隊の総火力を持って殲滅する。発案者の名前を取ってキリシマプラン、か。益々怪獣映画の世界だな」
首相官邸、巨大深海生物対策特別作戦室。ガザラとラグラが次回上陸した時に備えるべく、霞ヶ関の官僚達に加え様々な方面の知識人達が招集された特別チームだ。
ミサはドクターマトンもこのチームに参加しており、勝手にミサの名前を入れたドクターマトンを横目で睨む。最も、ドクターマトンは素知らぬ顔だったが。
立案書を読み終え、老眼鏡を外した総理が目頭を揉み唸る。今も世間では怪獣災害の責任を問う声が響き渡り、ただでさえ常滑市の災害救助に復興支援な目も回る様な仕事の嵐。老体には厳しいこの情勢化ではあるが、何処となくいつも以上に疲労困憊なのが目に見えていた。
「作戦事態は私にも納得出来る。確かにこの方法なら国民の被害を最小限に留めたまま、あの二体の怪獣を殲滅する可能性は高いだろう」
「では一刻も早く作戦指定地域の選定とそれに合わせた自衛隊の行動プランを…………」
「だがサンズ・オブ・トリニティの原子炉の管理は米国が全権を有している。それにコレは最終用国家機密なので公にはしていないが、ガザラとラグラの上陸の日の夜だ。米軍に管理権を移譲したその当日に、エコテロリストグループの襲撃を受けて原子炉の一部を奪われている」
「ワッツ!?」
「そんな馬鹿な…………」
「事実だから仕方あるまい。原子炉をそのままには出来ないとして、核燃料を10個のコアに変えて保管していたらしいがその内の一つを奪われたとの事だ。全く…………人の国で…………」
それ以上の言葉を口にすれば止まらなくなると判断したのか黙り込んでしまう総理。一応、同じアメリカ人として謝罪しようかと迷ったドクターマトンだったが、神経を逆撫でするだけだと判断して辞めた。
「現在公安警察がコアを保有したまま国内に潜伏して居るエコテロリスト達を捜査している。だがもしもそのエコテロリストどもが国内で敢えてコアに何かしらの細工を施して臨界状態にしてしまえば、人口密集地にガザラとラグラが上陸して戦い始めてしまう可能性が出てきてしまった訳だ」
「アメリカ政府や大統領は何と?」
「ガザラとラグラの撃滅後の復興の全面支援と履き替えに、この不祥事の隠蔽とコアの回収を要求してきた。まぁ、国内で米海兵隊とエコテロリストが銃撃戦をするよりかはマシだと了承したよ…………」
グッタリとソファにもたれる総理に、誰しもが同情した。そして誰しもが、何故この人が怪獣関連の全部の責任を押し付けられなければならないんだと言う世の中の不条理に内心涙を流したのだった。
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