第二章 その五

「しまった…………カニも居たか!!」


 総理の言葉通り、サメ型怪獣出現以来その存在の探知が疎かになっていた隙を付く形で東京湾に侵入した甲殻類型怪獣のハサミが東京湾アクアラインの海ほたるPAに振り下ろされる。


 爆発と激しい黒煙が海ほたるPAを包み、崩壊したアクアラインを突っ切って甲殻類型怪獣は東京へと進行していく。


「このまま奴を東京に上陸させる訳にはいかない。府中の航空自衛隊及び横須賀の海上自衛隊に出撃要請!!改正自衛隊法に従い、武器の無制限仕様を許可する!!」


 総理の指示を受けて防衛大臣が市ヶ谷に連絡。そして市ヶ谷からの通達を受けた横須賀基地から新型イージス艦『おがた』が出航する。


「アレだけか!?」

「他は全て湾外に偵察任務に出ています。戻るのに後五分は必要です」

「府中基地は!?」

「爆装したF-15Jが三機離陸。また戦闘用ヘリアパッチ・ロングボウ五機が東京湾アクアラインへ向かっています」


 五機の戦闘用ヘリが甲殻類型怪獣の周囲を取り囲む様にして展開し、また怪獣の背後にはイージス艦『おがた』が迫る。


「まずは空自のアパッチで先制する。30mm機関砲発射!!」


 五機から一斉に発射された30mm機関砲が怪獣の全身に突き刺さる。だが、その強固な甲羅には30mm機関砲の一斉射ですら傷一つ付かなかった。


「30mmでは効果は確認出来ない!」

「『おがた』の62口径五インチ砲を試す。アパッチは一度距離を確保せよ」

「了解。一時後退する」


 アパッチが銃口を怪獣に向けつつゆっくりと後退していき、怪獣がその動きに警戒してハサミを振り上げる。だがその間、イージス艦『おがた』は目標を狙い定めていた。


「背中及び後頭部の甲羅の耐久性は確認出来ていない。目標、肩の関節部」

「てーっ!!」


 ドン!と『おがた』の主砲が怪獣の肩を撃ち抜く。爆発が起こり僅かに前屈みになり、肩の辺りの甲羅にヒビが入る。


「62口径で甲羅に欠損を確認。右肩にヒビ。航空自衛隊の火力支援を要請す」

「了解した。F15、空対地ミサイルの発射を許可する」

「ラジャー。安全装置解除。ミサイル発射」


 上空を飛行していた三機のF15-Jが雲を切り裂き一斉に降下。それぞれ二発ずつ、合計六発の空対地ミサイルが怪獣の右肩に炸裂する。甲羅の完全破壊まではいかなかったが、それでもヒビは確実に広がっていった。


「『おがた』の火力支援を要請」

「了解した。次は左肩を狙え」


 甲羅にであってもダメージがあるなら倒せるはず。その場に居た全員、そして閣僚や市ヶ谷の司令室の自衛官達も勝機を確信したその時だった。


「海水面に異常。怪獣の周囲の海水が凍結を始めている模様」

「凍結?」


 アパッチからの報告を受けて見てみると、確かに怪獣の周囲の海水が凍り始めている。いや、正確に言えば怪獣の甲羅にも霜が付着し、凍り始めている。


「体内冷却機能が暴走している可能性あり」

「このまま自滅してくれれば一番だな」

「…………いえ、今度は温度が急上昇しています!!」

「何!?」


 総理の呟きを聞いていたのか、怪獣の周囲の氷は溶け始め、それどころか水蒸気までもが発生し始める。


「海水の蒸発により、対象のロックが不可能に。攻撃を一時中断します」

「何が起きているのか確認は出来ないのか?」

「せめて水蒸気が晴れなければ…………」


 何が起きているのか確かめようがなく、やむなくイージス艦『おがた』とアパッチ五機が水蒸気に接近し始めた瞬間。


 パーン!!と風船が破裂したような音の、数倍は五月蝿い謎の音と共に大量の何かが水蒸気の中から飛び出してきた。


「かい…………」


 回避、とイージス艦乗組員とアパッチ五機のそれぞれのパイロットが口にしようとする間も無く、飛び出してきたそれはイージス艦やアパッチ、そして上空を通過していたF15-Jの装甲を貫通した。


 悲鳴も、何か困惑するような声すら無く爆散する五機のアパッチ。三機のF15-Jの内、当たりどころが良かった一機を除き二機がコントロールを失い墜落していく。そしてイージス艦『おがた』はミサイルサイロに何かが貫通しており、船頭が吹き飛び一瞬にして水面に垂直状態になって沈み始めた。


「な、何が起きた!?」


 総理達の困惑も、司令室の混乱もやむを得ないものだった。一体何をされたのか、誰一人として理解できていないのだから。


 やがて水蒸気の中からゆっくりとその姿を見せた甲殻類型怪獣は、ついさっきまで肩にあったヒビは完全に消えてしまっていた。


「脱皮だわ…………」

「脱皮だと!?」

「傷がついた甲羅を脱皮で捨てて、新しい甲羅にしたんだ!!冷気と熱気を何かしらの形でコントロールする事で、過剰な寒暖差で空気を膨張させて前の甲羅を吹き飛ばして攻撃してきたんですよ!!」


 首相官邸の対策室に呼ばれていたミサとドクターマトンが一目で何が起きたかを把握していた。そしてその証拠と言うべきか、一拍遅れて東京湾沿いの建物や道路に大量の甲羅の破片が散乱している報告が上がってきた。


「なんて奴だ…………!!まだもう一体いると言うのに!!」



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