第二章 その四

「中部国際空港に巨大生物出現!!」

「東海地方全域に緊急事態速報発令!住民の避難を急がせろ!!」

「小牧基地、及び岐阜基地に出動命令!!」


 市ヶ谷の防衛省庁舎に設置された非常事態対策室。日本に出現する事が確実視されていた巨大深海生物対策の為、秘密裏に設置された対策本部だ。大勢の自衛隊員や防衛省の官僚達が右往左往する中、官邸とのリモート会議が繋がり駆けつけた閣僚達の顔が設置されたスクリーンの端に映る。


「状況はどうなっている?」

「不明です。電波障害が発生しており、巨大生物出現の情報以外入っていません。有線通信の準備を進めています」

「繋がりました!!映像、来ます!!」


 対策室、そして官邸のスクリーンに映し出される崩壊した中部国際空港。そしてその瓦礫の山の上を我が物顔で闊歩する巨大な、サメの様な怪獣の姿。


「カニじゃないのか!?」

「ええ、エビでもありません。強いて言うならサメです。それでもかなり形が違いますが」

「もう一体いたと言うのか…………!!」


 総理を始め、閣僚達の顔に明確な焦りと不安が入り混じる。しかし事態は待ってはくれない。


「巨大生物、人口密集地に進行を開始!」

「住民の避難は!?」

「まだ開始して三十分しか経過していません!!」

「出来る限り急がせろ!!」


 通信が有線通信以外使えないと言う非常に限られた状況下にも関わらず、一方的に言うだけ言ってくる閣僚達に頭の痛い思いをしながら対策本部の面々は可能な限り現地に指示を出していく。


 だが、巨大生物の進行は待ってはくれない。


 愛知県常滑市市街地。突然鳴り響いた避難勧告と非常事態警報に誰もが困惑している中でドーン、と激しい地響きが走った。立っていられないくらいの揺れに誰もが恐れていた大震災かと思ったが、その次に襲ってきた地響きと共に『それ』は姿を見せた。


「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっっ!!」


 家々を文字通り踏み潰し、コンクリートを捲り上げ、サメ型怪獣はギョロリとした目で腰を抜かした常滑市民を見下ろした。


「か、怪獣だぁ!!」


 本来ならあり得ない光景だが、それでも目の前に迫るその脅威がどんな物かは誰もが知っていた。


 悲鳴をあげて逃げ惑う人々。サメ型怪獣は再び雄叫びを上げて進軍を開始する。高速道路をゴールテープを切るかの様に押し通り、ショッピングモールの屋上駐車場に前足を乗せて体重を込めれば一瞬にして障害物は無くなる。ただひたすら真っ直ぐに、サメ型怪獣は名古屋方面に向けて突き進んでいった。


「巨大生物、時速約20キロの速度で名鉄常滑線近郊を北上中。計算上では後二時間で名古屋市内に侵入します」

「早いな…………名古屋市内の避難を急がせろ。迎撃体制は整ったか!?」

「東海地方に上陸した場合を想定し、東海町工業地帯に戦車部隊及び武装ヘリ部隊の展開を進めています。巨大生物誘導用ヘリ三機が先程小牧基地を離陸しました」

「よし!大臣、巨大生物誘導及び撃滅作戦開始の許可を…………」

「東京湾内に、甲殻類型巨大生物が出現しました!!」

「なんだと!?」


 突然の報告に誰しもが思わず手を止めてしまう。しかしスクリーンに映し出された東京湾の映像には、赤みがかった深緑色の甲羅に身を包んだ巨大生物の姿が映っていた。


 両手の先は巨大で鋭利なハサミ。そしてそのハサミを支える腕は太く、背筋も伸びていてカニと言うよりもエビに近いシルエットだった。しかし、ただのエビとは違い幾つかの副足はあれどしっかりと体重を支える二本の足があり、尻尾も鋭利な槍の様に尖っている。


「きしゅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」


 海老の頭に蟹の顔が混じった様な独特の首を持つその怪獣は、口を横に開いて金切り声を上げる。その進行方向には、東京湾アクアラインが。



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