第一章 その四

【豪華客船、謎の沈没!!】

【生存者ゼロ!!】

【フィリピン海上の悪夢!!】




 東京都内のとあるレストラン。ドクターマトンは日本の新聞を広げて読みながら人を待っていた。三日前行方不明になった豪華客船のニュースは連日新聞の紙面やテレビのニュースで引っ張りだこだった。


「ドクターマトン、まさか日本の新聞も読めるとは思いませんでしたわ」

「君と一緒に仕事をしていたんだ。活字ならある程度は読めるさ」


 その待ち人、ミサは清楚な白いワンピースに身を包んだ姿で現れた。ウェイターが水を運んできてミサの前に置くが、そこでミサはテーブルに用意された箸置きが三人分であることに気づいた。


「ああ、もうお二人とも到着してましたか。遅れて申し訳ありません」

「藤田さん………貴方もドクターマトンに?」

「ええ。桐島博士も呼ぶと聞いてまして」


 なんとなく面白くなくてドクターマトンを睨んでしまうミサだったが、ドクターマトンは悪戯っぽく笑うばかりだった。再びウェイターが水を運んできて、一呼吸おいて前菜とスープが運ばれてきた。


「それにしても、一体どういう風の吹き回しかしら?」

「この三人が揃ったんだ。あの巨大な深海のハサミの話さ」


 優雅にスープを飲んでいたドクターマトンは、一度スプーンを置くと懐から一枚の封筒を取り出す。差し出し主はアメリカ大使館。中身は飛行機のチケットだ。


「実は本国から一刻も早く帰国しろと催促されてね。あの話を聞いてしまったからには、どうもきな臭いものを感じたんだ」

「それは一体、どう言うことなんです?まさか、ホワイトハウスはあのハサミの怪物が日本を襲うとでも?」

「それがあながち間違いじゃないかもしれないんです。これ、気象庁の知り合いに頼んで見せてもらったデータが」


 どうやらドクターマトンとある程度情報を共有していたらしい藤田は、丁寧に折りたたんであった書類を広げていく。生物学が専攻のミサにしてみれば門外漢のデータではあるが、そんなミサでも一目見れば何を記録したデータかは一目でわかった。


「移動する海底震源………?」


 一か月ほど前から複数回、マリアナ海溝の方から小規模な海底地震が発生していた。どれもこれもマグニチュード1、大きくても2程度の揺れではあるが、頻発しているという事実は見逃せない。おまけにその震源の波形はどれも酷似しており、同一の震源だと考えるのが自然だった。問題は、その震源がゆっくりと、しかも一定間隔でマリアナ海溝の方から日本に向けて近づいてきているということだった。


「嘘でしょう?まるで、怪獣映画だわ」

「でも、本当なんです。上司たちには信じては貰えてないみたいですけど」

「そうね………私だって、研究生がこんなレポートを提出したら書き直させますもの」

「大学博士としては同感だが、一研究者としては興味深い結果だ。そしてドクターキリシマ。この震源の移動速度をだと三日前にどの海域に居たかを計算してみるんだ」


 背筋がゾクリとして、震える手で震源の移動間隔に沿って指を動かしていく。そしてちょうど三日前の地点は、フィリピン海上の豪華客船が消息を絶った海域だった。



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