<4> まさかのワンナイトラブ

朝、目が覚めると、見たことのない光景に香織は目を見張った。


豪華なダブルベッドになぜか裸でいる自分。そして、横には規則正しい寝息を立てている男性が一人・・・。彼も服を着ていなかった。


衝撃過ぎて、頭が働かない。香織は頭を抱えた。


(何が、どうなっているの?)


昨日のことは記憶がない。いや、陽一とバーまで行った記憶はある。

そこでカクテルを数杯飲んだ記憶まではあるが、その後は全く覚えていない。


悶絶している香織の横で、陽一はスヤスヤと眠っている。


(・・・!とりあえず、このままトンズラする??)


香織はそっとベッドから抜け出そうとすると、するっと腕が伸びて、ガシッと腰を捕まえられた。


「・・・起きたのか・・・」


「ひっ!」


「・・・なんだよ、その悲鳴は」


陽一は上半身を起こすと、改めて香織を見た。

端正な顔立ちと、逞しく、立派な胸板を目の前に、香織の心臓はドクドクと音を立て始めた。目のやり場に困り、慌てて目を逸らした。


「あ、あの・・・、これは、一体どういう状況で?」


「は?」


「・・・」


「・・・もしかして、お前、記憶ないのか?」


香織は頷いた。それを見た陽一は短くため息をついた。


「まあ、結構酔ってたもんな・・・」


「あ、あの・・・、んっ・・・」


動揺している香織の唇に、陽一の唇が押し付けられ、口をふさがれた。

陽一はゆっくり唇を離すと、香織の顔を覗き込み、少し口角を上げた。


「初めての日を忘れられるのは癪だが、次は忘れるなよ」


「・・・つ、次って・・・」


「今日からお前と付き合うことにする」


「はい?」


香織は全く思考が追い付かない。何がどうなっているのかさっぱりだ。

とにかく、この陽一って男と一夜を共にしたのは、まぎれもない事実のようだ。


「あの!今回のことは、酔っぱらってたんで!その、責任を感じて付き合ってくれる必要なんて、全然ないですよ!ホント!」


「は?」


「だって、陽一さん、御曹司でしょう!お見合い相手、いらしたでしょう?今回は一夜の過ちですよ!気にしないください!」


陽一は、香織の提案に目を丸めた。

よもや、自分が拒絶されるとは!女だったらここは喜ぶところだろうに・・・。

陽一はそう思うと、顔をしかめた。


「ふーん、じゃあ、お前が責任取れ」


「はい?」


「俺の大事な体を奪った責任として、俺と付き合うこと」


今度は香織が目を丸めた。なんでそんな方向に話がいくの?


「ちょっと待ってくださいよ!私、記憶ないんですよ!もしかして、そっちが嫌がる私を襲ったんじゃないでしょうね!」


「へえ、じゃあ、これは何だよ?」


陽一は自分の胸を指差した。香織は改めて陽一の逞しい胸を見た。

それを見て、ギョッとした。

陽一の首元から胸元にかけて、いくつものマークが点々と付いている。


「・・・これって・・・」


「無理やり襲った女が、こんなに跡つけるか?普通」


香織は、頭から血がサーっと一気に下がる音が聞こえた。

陽一は香織の胸元を指差すと、意地悪そうに笑った。

そこには、一つ二つ小さなキスマークが見える。


「俺が付けた数よりずっと多いんだけど」


「も、も、申し訳ございません!!」


香織はベッドの上で、陽一に土下座した。


「酔った勢いとは言え、とんでもないことをしました! でも、でも・・・。今回はどうかご勘弁ください!陽一さんと私じゃ不釣り合いです!」


「そんなことは、付き合ってみないと分からないだろ」


いやいやいや、分かるって!香織が顔を上げた時は、陽一は立ち上がり、シャワールームへ向かっていた。


「とにかく、朝食だ。腹が減った」


そう言い残し、シャワールームに消えていった。


(いやいやいや、無理無理無理!ないないない!)


香織は、フルスピードで自分の服に着替えると、髪の毛もボサボサのまま、その部屋を飛び出した。


部屋を出ると、美しい絨毯と、たくさんの扉が目に入る。どこかのシティホテルのようだ。エレベーターのボタンを連打し、急いでロビーに向かった。

エレベーター内の鏡の前で、髪を手櫛で何とか整えて、ロビーの前を澄ました足取りで通り過ぎると、自動回転ドアに飛び込んだ。


朝の日差しのまぶしい都内の街を、香織はダッシュで駆け抜けて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る