<3> 御曹司

三人ともいい具合に酔いが回ってきた頃、一人の男性が席に近づいてきた。


「じいちゃん、良いところで飲んでるね。俺も混ぜてよ」


男はそう言うと、後ろから太一郎の両肩に手を置いた。


「おー、陽一じゃないかー!どうしたー?ハハハッー」


「やぁ、君が陽一君かー!座れ、座れ!」


酔っ払い爺さん二人に勧められ、陽一は太一郎の隣に座った。


「お疲れ様です~~。先ほどは失礼しました~」


二人の爺さんよりは若干まともな香織は、フワフワしながらも、さっきの非礼を詫びるだけの正気は残っていた。


「何飲みます~~?」


「じゃあ、ビールで」


「はーい。ビールですね~。お兄さ~ん!ビール、ジョッキ1つ追加お願いしま~す!あとピッチャーも!」


店員がビールを持ってくると、改めて四人で乾杯をした。


「陽一、どうしてここが分かったんだよ~。じいちゃん、驚いちゃったよ~。ハハハッー!」


「GPSだよ。じいちゃんの携帯の位置情報」


「良く分かんねーが、すげぇな。お前は!」


太一郎は陽一の肩をバンバン叩く。


「ところで、お見合いは上手くいったんですかぁ~?」


香織は陽一の空いたジョッキにビールを注ぎながら聞いた。


「そうだ!見合い!陽一!今日はじいちゃんを約束してたじゃないか!なんで別の嬢ちゃんなんかと見合いしてんだよぉ!」


「見合いなんてしょっちゅうだろ。どっちの爺さんから言われたか、忘れてたんだよ」


陽一は肩を竦めて、ビールを口にした。


「へぇ、そんなに見合いさせられてんだ、陽一君は。御曹司も大変だなぁ!」


ガハハハッと笑いながら、幸之助はビールをあおいだ。

香織は、今度は幸之助の空いたジョッキに、ビールを注ぎながら、


「えー、じゃあ、今日で打ち止めにすればいいじゃないですかぁ。だって、さっきのお嬢さん、めっちゃ綺麗でしたよ~」


そう言い、自分のジョッキにビールを注ごうとすると、陽一にピッチャーを奪われた。


「打ち止めか。・・・それもそうだな」


陽一はそう呟くと、香織のジョッキにビールを注いだ。香織は、ど~も~と頭を下げた。

香織は更に、から揚げ、もつ煮、手羽先など、どんどん注文していく。


「よく食べるな・・・」


「え~、そうですかぁ? へへへ~、お腹すいちゃって~。今日いいところでお食事だなんて、おじいちゃんが言うから、お昼抜いてきたんですよ~」


男性陣は飲むだけで食事にはあまり料理手を付けない。それをいいことに、香織はほぼ一人で料理を平らげた。



                   ☆



早いうちから飲み始めたので、一軒目を出た時は、まだ20時にもなっていなかった。すぐに、爺さん二人に引きずられ、二軒目に入った。そして、そこを出るころには、年寄二人は完全に出来上がっていた。


「おじいちゃん、大丈夫?帰ろう」


「〇◇▼☆~♪~」

「★△〇◇♪~」


二人の年寄りは肩を組んで、陽気に歌を歌っている。ほとんど真っ直ぐ歩けていない。

香織の問いかけにも全く答えない。


「これは、ダメだな」


陽一は、そう呟くと、スマホを取り出し、どこかに電話をかけ始めた。


暫くすると、一台の黒塗りの立派な車がやって来た。

車から、一人の男が降りてくると、真っ直ぐに陽一のところにやってきた。


「坊ちゃま。お待たせしました。えっと、おじいさまは?」


陽一は黙って指を差した。その方向を見ると、ベンチに二人の老人が肩を組んだまま眠っている。その横に、困ったように立って二人を見下ろしている女性がいた。


「年寄二人だけ、送ってやってくれ。二人とも佐藤の家に降ろせばいい」


「かしこまりました」


運転手は、香織と陽一の手を借りながら、老人二人を車に押し込めると、陽一に一礼して走り去っていった。


「・・・あれ?タクシーじゃないんですか?今の・・・」


自分も乗り込むつもりでいた香織は、走り去ってしまった車を呆然と見送った。


「いや。うちの車だ。無事に送り届けるから大丈夫だ。それより、折角だから、もう一軒行こう。今度はもっと落ち着いたバーにでも」


いや~、自分も結構酔ってるんで・・・と言いかけたが、陽一はスタスタ歩いて行ってしまう。香織はふら付く足取りで、陽一を追いかけた。

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