<2> 老人同士の約束

料亭を出ると、二人の老人の前に香織は仁王立ちになった。


「どういうこと!?」


「・・・・」


二人の老人は顔を見合わせて、俯いた。その態度に香織はため息をついた。

自分は二人に腹が立っているが、この二人もまだ腹の虫が治まっていないことはわかっている。


「・・・飲みに行く?まだ明るいけど。赤羽辺り行けば、もう店開いているわよ」


「・・・!そうしよう!」


老人二人は手を叩いて、香織の意見に賛成した。



                ☆



「さあ!どういうことか、説明してもらいましょうか?」


路上に席がうっそうと並んでいる、居酒屋の一席。そこでビールジョッキで乾杯すると、早速、香織が口火を切った。


「実は、爺ちゃんたちな、親友なんだ」


「・・・そうでしょうね。見てれば分かるわよ」


香織は枝豆を口に運びながら、頷いた。太一郎もイカゲソをかじりながら頷く。


「でな、昔から言っていたんだ。孫ができたら、結婚させて親戚になろうなって」


香織は枝豆を噴出した。


「本当なら、子供同士を結婚させようって、言っていたんだよ。香織ちゃん。でも幸ちゃんのところも女の子一人、俺んところも娘だけだったから、孫に託そうって話になったんだよ」


咽た香織は、ビールで枝豆を流し込むと、ドン!とジョッキをテーブルに置いた。


「聞いてないんだけど、そんなこと!」


「だって、言ってないもんなぁ?」


「なぁ?」


「なぁ?じゃなくて!私の意見は無視かい?!」


香織の突っ込みに、老人二人は同時に首を振った。


「まさか!だからお見合いの席を設けたんだよ。ちゃんとうちの孫を知ってもらいたいと思ってね。なのに、まさか潰されるとは・・・」


太一郎は寂しそうに、イカゲソをかじると、ビールを一気飲みした。


「・・・まあ、綾子ちゃんの気持ちも分かるよ。いいところに嫁いじゃったからなぁ。佐田家の為を考えると、金持ちの良家のお嬢さんがいいと思うだろうねぇ」


「なによ、おじいちゃん。そこまで分かっているなら、最初から私なんて無理じゃん」


「ハハハハッー!まあな!一縷の望みってか?万が一、陽一君に気に入られれば、玉の輿だと思ってな~!」


「いやいや、幸ちゃん。俺は陽一にはフツーの子が似合うと思ってんだよぉ。香織ちゃんみたいに、普通に可愛い子がぁ」


(普通に可愛いって、微妙な誉め言葉・・・)


香織もイカゲソを食いちぎりながら、ビールをあおった。

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