32.そこでいただきましょう
エングロッザ王国の王都ジンバフィルを、地図と同じように
淡水湖には、鳥についばまれたような
ヒューネリクの作り上げた巨塔は、山脈に続くゆるやかな
レナートたちが外に出ると、すでに
「路面電車を使いましょう。市街中央の、以前の王族用の宮殿を
「大したもんだね……ここがどこだか、忘れそうになるよ」
ザハールの観光案内に、レナートも素直に返す。
リヴィオとニジュカ、アーリーヤも、古代と近代が散らばった景観に圧倒されて、見入っていた。
ザハールがうながして、本当に観光の
「宮殿は現在、民衆に開放されています。毎日無料で飲食物を提供しているので、私たちも、そこでいただきましょう。この時間だと、昼食になるかも知れませんが」
「なるべく、簡単な見た目の物を選んだ方が良いぞ」
一番後ろを、こっちも保護者のように歩くルカが、口をゆがめた。
「あの野郎、中途半端な
「王さまも、食い物のどうこうを、おっさんに言われたくないだろうなあ。昨日、変な料理ばっかり食ってたじゃねえか」
「おっさんじゃない! あれは、食わされてたんだよ! 料理されて並べられたら、食わないで捨てるわけにいかないだろ!」
「いいね、同感だ! あれが新しいロセリア料理ってやつか? うちの若いのが言うほど、悪くなかったぜ!」
「だから、新しいもくそも、あんなのはロセリア料理じゃねえ!」
「来ましたよ」
リヴィオとニジュカに茶化されるルカを放置して、ザハールが、
歩行より、やや速いくらいの速度だ。車体の側面全長が開放されていて、手すりをつかんで、身体を持ち上げる
レナートが続けて乗って、アーリーヤに手を差し出す。どちらも、ぎこちない顔のまま、アーリーヤがなんとか乗り込んだ。リヴィオ、ニジュカ、ルカは危なげない。
車内に、他の人間はいなかった。車体の前方で
ザハールが説明した通り、路面電車はゆっくりと、市街中央の大通りを南下する。道幅は広いが、大勢の人が適当に机を出し、
「後で、淡水湖の方を回られるのも良いですよ。
「いや、もう、昼間から酔っぱらいばかりで、どこ見ても
「フラガナは、大体こんなんだぞ。だから民族の自主独立って言っても、なかなか進まなくてな。俺たち東フラガナも、苦労してるぜ」
「なんとなくわかりますよ」
レナートは会話を
ヒューネリクの
それこそ、もう
奇妙に
やがて路面電車の向かう先に、明るい色の
ここも、人で
王宮内を調理場にしているのか、香ばしい匂いと、料理を持った
庭園から大通りにかけて、元は上品な食卓や
レナートたちは路面電車を降りて、比較的おとなしい場所の席についた。そのはずだったが、座るや否や、
「よお! 知らねえ顔だな、兄弟! どこから来た?」
「東だよ。
ニジュカが、レナートたちに
男は四十歳くらいか、五十歳にとどくか、
当の二人が、一杯ずつを一息で飲み
「
「ああ! 飲み放題の、食い放題だ! 新しい王さまのお祝いみたいでなあ、このところ、毎日こんな騒ぎだよ!」
「それもすごいけど、街の中さ。あの明かりや水の出る仕組み、勝手に動く箱みたいな乗り物とか、どうなってんだ?」
「さあ? 全部、新しい王さまがなんかしてるみたいでなあ。わけがわからないけど、便利になったのは大助かりだよ!」
「あの歩いてる変なやつらは……」
「便利で大助かりだよ! 作ってくれる料理も
「そうだな!」
聞いた話に、ほとんど意味がない。黒色人種の
レナートはリヴィオと顔を見合わせて、同時にため息をついた。
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