25.言わせてくださいまし
ザハールの差しのべた右手は、
「あなたが使っていた弾丸と同じ、
ふと、ザハールが言葉を止めて、にこやかに笑った。
「あなたを入れて三人とも、間一髪でしたね。このくらいは、ええ、気にしないでください。あなたを救った、名誉の負傷ですから」
「そりゃどうも」
レナートが、言われた通り気にしないで、差しのべられた右手を全力で握り返した。レナートを引き立たせて、ザハールは、笑顔を
この状況で意味があるかどうかは別として、レナートは
レナートが、まだザハールに握られたままの右手を、振り払った。
「余計なことをしたもんだね」
「申しわけありません」
「ぼくに、じゃない。あんたに、だよ。ぼくが殺された後に、背中からベルグに斬りかかれば、もっと効率が良かったじゃないか」
「もちろん、そうしなかったからには、そうしなかった理由があります。先ほども言いましたが、私たちはエングロッザ王国ヒューネリク国王の意向を受けて、彼に協力しているのです」
ヒューネリクというのは、アーリーヤの話では、兄王子の名前だった。
称号が変わっていることを、レナートもニジュカも、口の
「ヒューネリク国王とアーリーヤ王女の認識に
ザハールが、また
「ですので、私たちは今、平和的で建設的な目的を共有する仲間です。ちょうど、と言ってはなんですが、別の
「そんな、見えている罠に飛び込んで行っても、ね」
「ここからジンバフィルまでの
レナートとニジュカが、顔を見合わせた。
ニジュカが肩をすくめる。レナートに任せる、ということだ。奇妙な沈黙の間に、近くの茂みがゆれて、無遠慮な声が割って入った。
「なんだ、まだまとまってねえのか? ザハール、おまえ、
「誤解があります。私はいつも、誠心誠意、相手に向き合っていますよ」
ザハールの不平に、ザハールより少し背が低くて、少したくましい感じの男が、鼻で笑った。
たてがみのような
ルカは、ぼろ
さらにその背後に、ルカの
「リヴィオ! そっちは大丈夫だったの?」
「あー、いや……悪い。わかんねえ」
レナートの声に、どうにかこうにか、リヴィオが返事をしぼり出す。
「最後はどっちも、派手にぶっ飛んだし……でも、まあ、生きてるだろうな。
リヴィオの
「それにしても……前にもくれた、この
「だろ?
「わかる、わかる。だからさ、もう一個くれよ」
「……私の私の私の、御主人さまに……なれなれしい、なれなれしい、なれなれしい……」
リヴィオとルカに、チェチーリヤまで加わったのんきな会話が、その場の空気をゆるめた。
レナートは、ため息を一つついて、
ザハールがどれだけ本当のことを言っているかは知れないが、目まぐるしく状況が変わっているのは、確かだった。ロセリアか、フェルネラントか、アルメキアか、どこをどう出し抜くにしても、
罠なら罠で、なんとか利用するしかない。覚悟と言うより、開き直りに近かった。
「さて。それじゃあ、後は王女さんか」
気配を
「わたくしなら……
アーリーヤは、レナートが放り出していった、もう一丁の
レナートに歩み寄って、
「レナートさま、わたくしは……難しいことはわかりません。ですが、こんな怪しげな
アーリーヤが、ふん、と鼻息を荒げた。ザハールが笑顔のままで、ルカがげんなりとした顔で、
「ですが……一つだけ、言わせてくださいまし」
アーリーヤが背中をのばした。
胸と腰が立派に張った成人女性の身体つきは、レナートと
アーリーヤの
「レナートさまも……わからずやですわ……っ!」
アーリーヤはそのまま、大声で泣いた。
両手で自分の服の
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