5.嘘ばっかりですわ!
レナートたちの隠れた茂みから、少し離れた場所に、ザハールが顔をのぞかせた。
相変わらず、
「ルカたちも、もうすぐ
遠くの地響きを聞きながら、ザハールが、ため息混じりに
「重ねて言いますが、その子の
いきり立ってなにか反論しようとするアーリーヤの口を、レナートが慌てて、
「落ち着いて。わからないけど、わかってるから」
「あんなの、
「
アーリーヤが口をふさがれたまま、ザハールをにらむレナートの、横顔を見上げた。
「相手を
「……」
「リヴィオたちの戦いが終わるのを待つ、のも本当かな? あのルカって人が勝って、二対一になってから、楽して片づけたいみたいだね」
アーリーヤが身じろぎして、口を押さえていたレナートの
「レナートさまを殺したくないとか、わたくしを返せば引き下がるとも、言ってましたわ……」
「殺したくなくても殺せるし、殺してから引き下がるってのも、ありなんじゃないかな」
平然としたレナートの口調に、アーリーヤが身体をこわばらせる。
「レナートさま、わたくしは……」
「さっきも言ったけど、君のことは名前しか知らない。好きでも嫌いでもないし、どっちかと言えば、
「は、は、はっきり、おっしゃいますのね!」
「だから、君がいろいろ気にする必要はないよ。ぼくは自分の行動を、自分で決める情報が欲しいだけだ。それで命がけになるなら、仕方がない。特務局<
レナートが赤い
「君は、ヴェルナスタ共和国に亡命する意志がある? そんな小さな身体で、国も家族も捨てて外国に逃げる、そこまでの意志と目的を持っているの?」
「……」
「はい、なら、それで充分だ。後は、こっちの仕事だよ」
「いいえ、ですわ」
アーリーヤが、レナートの手を握りしめた。まっすぐにレナートを見上げて、レナートの方が少し、面食らう。
「わたくしは国とお兄さまを、あの連中から取り戻しますの。そのお手伝いを、お願いに参ったのですわ。逃げているつもりはございません」
「いや、どこからどう見ても、逃げてたっぽいけどさ……ええと、内乱か軍事政変か、とにかく武力介入の
「細かいことはわかりませんわ、レナートさま」
「細かくないよ、アーリーヤ」
レナートが
「取り引き、というものくらい、心得ておりますわ。
「今度は、
「わかってても、わかってなくても、やることは変わりませんわ。今まさに、あの連中に全部かっさらわれるのと比べれば、だいぶマシですの」
「……」
レナートは唖然とした。そして、大声で笑い出さないように、結構な努力を必要とした。
なるほど。まったく理屈ではないけれど、命がけでも、と、乗せられるのはこういうことかと思う。
「仕方がないな。インパネイラまでは、ぼくたちが君を守る。その先は、また後の話にしよう」
「告白に近いものでしたわ」
「後の話にしよう」
レナートが繰り返して、アーリーヤがむくれた。それでもすぐに、気づかわしげな顔になる。
「で、ですが……あの変態美人を、どうすれば……」
「あとちょっとしたら、あいつの目算が外れる。ぼくが合図するから、まっすぐインパネイラに向かって走るんだ」
「え……?」
「根性の比べ合いで、リヴィオは負けないよ。静かになるのは、どっちも空腹で動けなくなった時だ。ルカは来られない。それに気がついた瞬間、ザハールに
レナートの言葉と、ほとんど同時に、地響きが聞こえなくなった。
ザハールが顔を上げる。
レナートがアーリーヤの背中を、インパネイラの方へ押す。そのまま、左手で
口で突起を外し、ザハールに向かって投げる。茂みから飛び出したレナートと、茂みからの音を追うようにレナートを見たザハールの視線が、空中の金属缶をはさんで交差した。
金属缶が、破裂した。
小規模の火薬で
その球面の外に、インパネイラへ向かう軌跡に、銃弾を配置するように三発、撃つ。最後の一発は、
急に、自分も
音もなく薄暗く、身体の動きもあきれるほど遅い
広がる煙と破砕片を
レナートも、ザハールに銃口を向けて、引き金を引いていた。だが、遅い。
ザハールが小剣を振ろうとして、ため息をつくように、少し姿勢を変えた。それを見てレナートは、ようやく、レナートをかばうようにしがみついて来ていたアーリーヤに気がついた。
レナートも、ため息をつきたくなった。アーリーヤの行動は無謀で、論理的でなく、意味もない。
ザハールの小剣は、そこは
確かに、
レナートは、くやし
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