根暗×世話焼き






 俺の幼なじみの優は、とても危なっかしい。

 小さい時はそうでもなかったのに、気がついたらネガティブな性格になっていた。


 人と関わるのが怖くて、目を覆うぐらいに前髪を伸ばして、いつも下を向いている。

 きちんとした格好をして、背筋を伸ばせば絶対にモテるはずなのに、本人はそれを全く望んでいなかった。



「連君がいれば、他には何もいらない」



 それでいいのかとも思ったが、嫌がっていることを無理やりさせる方が可哀想だ。



「そうか。それなら一緒にいような」



 俺といるのがいいと言ってくれているのだから、出来る限り一緒にいると決めた。




 高校生になっても、相変わらず優は俺以外と付き合おうとはしなかった。

 小学校や中学校からの知り合いは、そういうものだと何も言わない。優の家族でさえ諦めていて、俺によろしく頼むとお願いしてきたぐらいだ。それぐらい、一人鎖国状態である。


 俺は別に構わないのだけど、本当にこれでいいのかと心配にはなる。

 いじめは起こる前に阻止したから無かったにしても、これから大人になっていくにつれて、いやでも人との関わりは増える。


 ニートや引きこもりには絶対させないから、社会人になった時に最低限の社交性を持って欲しいのだ。




「そういうわけで、練習しよう」


「どういうわけで?」



 放課後、優は俺の家に遊びにくる。

 今日もそうだったので、ベッドの上に腰かけながら練習すると宣言した。

 前髪で隠れているが呆れたような表情をされる。そんな顔をしているが、優のためにしようと思っているのだ。感謝してほしい。



「もう一年も終わりなのに、俺以外に話す人はいるのか?」


「いないし、必要ない」


「それじゃあ駄目なんだよ。今年はたまたま同じクラスになったからいいけど、来年は別になるかもしれないよな。その時に話す人が誰もいないのは、さすがにマズイって」


「別に興味はない」



 知ってはいたが頑なだ。

 一人でも平気だというのは本心だろうが、クラス替えをして分かれたら大惨事になる。俺だって毎回カバーしきれない。



「優がいい奴だっていうことは、俺が一番よく分かっているから。誤解しているみんなにも知ってもらいたいんだ。とにかくつべこべ言わずに、さっさと練習するぞ」


「はいはい」



 こうと決めたら曲げない俺の性格を知っているから、いつも優の方が折れてくれる。

 こういう優しさを、もっとみんなに知ってもらいたい。



「それで練習っていうのは何をするんだ?」



 ベッドの脇でクッションに座りながら、こちらを見上げてくる。

 髪の隙間から、キャラメル色の瞳が覗いた。カラコンじゃない優のこの瞳の色が、俺は大好きだった。

 隠すのはもったいないと何度言っても、髪を切ってくれなかった。

 本当にもったいない。



「えーっとそうだな……俺をクラスメイトの誰かだと思って、話をしてみよう」


「クラスメイト?」


「嫌なのか? うーん……あっ! それなら好きな人だと思って、話をしてみるのはどうだろう」


「好きな人?」



 クラスメイトよりも、好きな人と話すスキルの方が絶対に大事だ。

 俺で練習台になるかどうかは分からないけど、やらないよりはマシだろう。



「そういえば、優って好きな子いるの?」



 これでいないとなったら、妄想で作り出すしかない。優のことだから、多分いないと言うだろうが。



「いるよ」


「えっ……いるの? だ、誰?」


「それは内緒」



 でも俺の予想に反して、好きな人がいると言った。嘘をついているようには見えない。


 優に、好きな人が。

 別にありえないことじゃないはずなのに、胸がとてつもなく痛んだ。



「そ、そっか。それなら、俺をその子だと思って、練習でもしてみる?」


「いいよ」



 出来るなら断って欲しかった。でも受け入れられたせいで、俺は逃げ道を自分で無くしてしまった。



「えっと……優、君?」


「呼び捨てでいいよ」



 好きな子が誰なのか教えてもらえなかったから、どういう話し方なのかも分からない。でも練習すると言った手前、なんとか顔をひきつらせながらも会話を始める。



「それじゃあ、優。……なんか恥ずかしいね。優は、どんな子が好きなの?」



 やっていて上手く出来ている自信が、全くないぐらい何を言っていいのか思いつかない。

 とりあえず適当な話題を提供すれば、優がベッドに乗り上げてきた。



「ゆ、優?」


「俺の好きな子、本当に知りたい?」


「う、うん」



 実際に気になるから頷く。

 そうすると自然な動きで、何故か俺はいつの間にか押し倒されている体勢になっていた。あまりにも自然だったから、全く疑問に思わなかった。


 優が近い。

 髪の毛が重力に従って下がっているから、顔が良く見える。そのせいで、心臓がうるさいぐらいに騒いだ。


 絶対に今の俺は顔が真っ赤だ。相手は優なのに、ものすごくドキドキしている。



「俺の好きな子はね。いつも明るくて、こんな俺のそばにいてくれて、それで笑顔が可愛い」


「そ、うなんだ」



 優の周りにいる中で、それに当てはまる人はいただろうか。頭をフル回転させてみるけど、そもそも人と関わっているところを見たことがないから、全く思い当たらない。


 でも、好きな人がいるのは本当だ。もしかしたら、そのうち付き合うかもしれない。

 その子だって、優を知れば絶対に好きになる。

 付き合ったら一緒に過ごすだろう。もしそうなれば、俺はお払い箱になるのか。



 すぐそこにあるかもしれない未来を想像したら、胸がぎゅっと掴まれたようになって視界がにじんだ。


 どうして涙が出るんだ。

 わけがわからなくて固まっていると、上から大きなため息が聞こえた。

 それが呆れられているみたいに聞こえて、体が震える。



「まったく、ここまで言っても分からないなんて……連が悪いんだからね」


「へ?」



 呼ばれた名前に反応すれば、唇に柔らかいものが触れた。



「俺の好きな子は、今目の前にいるよ」







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BL詰め合わせ 瀬川 @segawa08

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