07話.[隠れてしまった]
「それじゃあこれで」
「うん、気をつけてね」
片付けを終わらせた後にまさと田保さんが帰ったから静かになった。
ちなみにゆめはちょっと眠たそうにしていたからこちらは自宅でお風呂に入ってきてしまうことにした。
その際に少し両親にからかわれても気にしないで戻ってきたのだが、なんか明らかに拗ねているように見える顔でこっちを見てきているゆめさんがいた。
「ずっと離れたくないと言ってれいもそれを受け入れてくれたのに離れた」
「お風呂ぐらいは自宅の方が落ち着くからさ」
「少なくとも三十分ぐらいで戻ってくると思ったのに一時間も待たされた」
「い、意外と出ることができなくてさ」
「言い訳ばっかり、ごめんと謝ることもできなくなっちゃったの?」
謝罪をしておいた……。
ただ、ちゃんと言ってから出たし、本人も頷いてくれたからこその行動でもあるから全部が全部こっちが悪いわけではない気がする。
こういうところが駄目だということなら、うん、いまの僕は駄目だが……。
「ほら、今度はちゃんとここにいるからお風呂に入ってきなよ」
「それなら私のお部屋に行ってて」
「分かった、じゃあ座ってゆっくりさせてもらうことにするよ」
気にせずに二階に移動して、これまた気にせずに部屋に入らせてもらった。
奇麗で広いから壁に背を預けて座っていたら眠たくなってきて、うとうとしていたタイミングでゆめが戻ってきて驚いた。
それこそ長時間派なのに今日はどうしたんだろう。
「寒い寒い寒い! やっぱり急いで出るとデメリットがあるね!」
彼女はベッドにダイブするとすぐに布団をまとって対策を取っていた。
長時間になればなるほど心配になるが、こうして物凄く早く戻ってこられるのもそれはそれで心配になるという難しい子だ。
「もう出ないよー」とか言っている彼女はなんか楽しそうで、いちいち水を差すのも違うから黙っておいたが。
「それにしてもれいは駄目だね、しづちゃんが怒りたくなる気持ちがよく分かるよ」
「ちゃんと言ってから出たのに……」
「帰ってほしい」とぶつけていた彼女が田保さんと同じようになってしまっている、いまここにいたならブーメランだと言われてしまっただろうな。
「人が眠たさに負けそうになっているときに言うのが卑怯なの、そのせいで気がついたときにはいなくなっているしさあ」
「か、鍵はちゃんとしたから、あ、玄関のところに置いてあるからね」
いかな幼馴染とはいっても合鍵を貰っているわけではない、だからそういうことも含めて許可を貰ったのにこの反応だから大変だった。
録音をしておくぐらいがいいのかもしれない、まあ、やるつもりはないが。
「鍵の心配をしているわけではないんですよ、そこのところ分かっていますか?」
「分かった、悪かったよ、本当にもう離れたりしないから安心してよ」
変に足を伸ばして休んだせいで寧ろ動きたくないぐらいなので、もう怒られることはないだろう。
「ちなみに私は金欠だったのでクリスマスプレゼントは買っていません、が! 物はなくてもできることはあるんですよ。ささ、れいもこれに入って入って」
「うん」
んー、縦方向にそこまで長いというわけではないから横並びになると微妙にはみ出す部分が出てきて絶妙に冷えるぞこれという感想を抱いたのだが、それからすぐに彼女が距離を縮めてきてそんなことは意識から消えた。
お風呂上がりだからなのか、それとも布団に包まれていたからなのか、かなり熱い気がして他のところに意識を向ける余裕がなかった。
「はい、好きなだけ抱きしめていいよ」
「場所がちょっと問題かな、ベッドの上でしたらやらしい感じになっちゃうよ」
「そこでやってもここでやっても変わらないよ、クリスマスの夜にふたりきりで部屋にいる時点であれだよ」
分かっているのにそんなことを言うなんてどうかしているとしか言いようがない。
「普通に転ぼうか、近くにゆめがいればいいからさ」
「ヘタレさんなの?」
聞かなかったことにして転ばせてもらうと窮屈ではなくなって楽になった。
正しい向きで転んでいるわけではないから足ははみ出してしまっているがそこはどうでもいい。
「んしょっと、これなら暖かいよね」
「じゃあこのまま寝ようか」
「えっ」
側に置いてあったリモコンを操作して電気を消させてもらい、それからはしっかりと自分と彼女に布団を掛けてから目を閉じた。
適度な重みが逆に心地が良く、すぐに眠気というのがやってきて完全に任せようとした際に両頬を掴まれて目を開けることになった。
「どうしたの?」
まだ目が慣れていないから物凄く近くてもどういう顔をしているのかははっきりとは分かっていないままだ。
そういうのもあって知りたいなら聞くしかない、で、聞いたところですぐに教えてくれないのが彼女ということになる。
「まだ寝るのは早いよ……」
「食後や入浴後にゆめが側にいてくれるからだろうね、すぐに眠たくなるんだよ」
残る物とかじゃなくてもこれだけで十分嬉しかった、だからこそいまの僕には効きすぎて眠たくなってしまうということでもあるが。
ただまあ、どうやらこのまま寝るのは許可されないみたいだ、頑張って上瞼と下瞼がくっつかないように頑張ることにしよう。
「さっき好きって言ってくれたけど、あれはそういう意味でだよね?」
「当たり前だよ、人としてなら敢えてあそこで言う必要もないでしょ?」
「……言ってしまえばただのテストぐらいであんなに不安になっていたのに、なんでこのことでは普通なの?」
「そういえばなんでだろうね、って、あそこにはまさしかいなかったからだけどね」
聞いていたなんて思っていなかったんだよ、もし存在に気づいていたらあそこで吐いたりはしていない。
正直、あれは失敗だった、せめて夜中とかそういうときにまさに言えばよかった。
「私が好きなんだ」
「うん、好きなんだよ」
「私も好き、だから今日だってちょっと大胆に行動したんだよ? れいは動じるどころかすぐに寝ようとしちゃったけど……」
「ははは、ごめん」
僕がお風呂に入っている間に彼女も入っていてくれたらこんなことにはならなかったかもしれないが、言っても仕方がないし、なによりこういう流れだったからこそこの結果になったと思うから気にしなくてもいいはずだ。
「んー、精神的に疲れたから寝ようかなー」
「もしかしてドキドキしてた?」
「当たり前だよ、なんかれいって私のこと高く評価しすぎなんだよね」
「実際、僕よりもちゃんと向き合える子だからね」
不安になってもそれを表に出して他者を困らせないというのがいいところだ、僕が真似をしなければいけないところでもある。
関係が変わってもそこだけは変わらない、彼女やまさみたいにできていればといまでも考えている。
もっとも、考えているだけで変えようと行動できているわけではないから動けよとツッコまれてしまうことでもあった。
「ほら、分かるでしょ?」
「……鼓動よりもその前にある柔らかさに意識がいくんだけど」
「胸なられいにもあるでしょ、私が知ってほしかったのはいまはどうなっているのかということだよ」
それにしたって特別強く跳ねているというわけでもないからいまいちドキドキしている感じは伝わってこなかった。
「って、ええ! わ、私はなにをしているの!?」
「えぇ、やってからそういうことを言うのはやめようよ……」
言ってしまえば強制的にそうされたのにこっちが加害者ということになってしまうからだ、だが、相当恥ずかしかったのか布団を全部剥ぎ取って隠れてしまった。
流石になにも掛けないで寝るのは避けたい、仕方がないから客間でも借りて寝ようとしたときに引っ張られて再び距離が近くなる。
「……もういいから早く寝よ」
「うん、分かった」
こっちとしては安心感や心地良さなどがすごかったからそこからあっという間で、気づいたら朝になっていた。
顔を洗ったり歯を磨いたりするために自宅に一旦帰らせてもらう、起こすことは可哀想だったからできなかったが大丈夫だろう。
別にこっちでゆっくりするために出てきたわけではないし、彼女の部屋に戻った後は床に座ってゆっくりするつもりだからね。
「よう、待ってたぜ」
「……早朝からなにをしているんですかね」
「俺は今日も部活だからな、会うならこういう時間の方がいいと思ってさ」
「それなら連絡しなよ、なんで偶然に賭けようとしちゃうの……」
部活で遅くまで活動しなければならないと分かっているのならぎりぎりまで休んでおくべきだ、そうでなくてもすぐにお腹が空いてしまう子なんだから他者よりも気をつけるべきだと思う。
これにしたって僕が自宅にずっといるつもりならひとりでずっと待つことになったんだ、なんでこういうときだけは僕以下になってしまうのかが分からない。
「おらっ」
「痛っ!? な、なんでおでこを突かれたの?」
自分の判断ミスを棚に上げて八つ当たりをされても困るよと考えたとき、彼は真面目な顔で「こういう大事な話は直接言ってくれよ、なんでアプリとかで済まそうとするんだ」とぶつけてきた。
「ああ、関係が変わったからまさにぐらいはすぐに言っておきたかったんだ」
「俺はすぐじゃなくてもいいから直接言ってもらいたかったよ、別に馬鹿にしたりとかしねえのになんでだよ――って、すぐに言いたかったからなんだよな。だが、俺のことを考えてくれているんだろうが俺はやっぱり……」
なるほど、確かにアプリで言うのと直接言うのとでは違うか。
自分がされた場合のことを考えるとはっきりする、直接の方が適当感……みたいなものが出なくて済む気がする。
「昨日告白したんだ、それでゆめが受け入れてくれたから付き合い始めたよ」
「ははは、最初からそれでよかっただろ、あ、おめでとう」
「い、いまのはちょっと適当じゃない?」
「違うよ、言っていなかったことを思い出したからだ」
言いたいことを言えて満足したのか「それじゃあな」と言って歩いて行こうとしたため、頑張ってと背中にぶつけたら手を上げただけだった。
うーん、だけど僕が同じことをしても決まらないだろうなという感想を抱きつつ、急いでゆめのところまで戻った。
「掃除終わりーっと、れい、奇麗になったから課題をやろ」
「うん、やろうか」
あれから食事や入浴の時間以外はずっとゆめの家で過ごしている。
ご両親の帰宅時間は元々不安定で話す機会というのはあまりなかったが、たまに早く帰ってきてくれるからそういうときはよく話をしていた。
もちろん付き合い始めたこととかも言ってある、変なことをしているわけではないこともね。
だから特に問題になったりはしていない、ご飯を食べさせてもらっているというわけでもないから気になることがそもそもないと言えた。
「今日もれいが隣で寝ていたかられいが夢に出てきてね、なんかこの前みたいに不安になっていたからずっと頭を撫でていたんだ」
「情けない僕が簡単に想像できるよ、僕がゆめのことでなにかをしてあげられればいいんだけどね……」
「れいは私のためにこうしていてくれているでしょ? ご飯とかを向こうで食べたりするのは気に入らないけど、それ以外は本当に私のためになっているから安心して」
これだって僕がただいたいだけとも見えてしまうことだ、彼女だけにメリットがあることをできていなければ相手のために動けているとは……。
「れいの一番いいところはお勉強をやっているときだよ、真面目な顔がいいんだ」
「そ、そう言うけど、別のクラスだからほとんど見られていないよね?」
「でも、こうして放課後は他の誰よりも近い場所で大好きなれいを見ているよ?」
「うっ、……ゆめはすごいよ」
言ってしまえば僕の顔を嬉々として見る人間は彼女ぐらい……ということになるのかな、とにかく大好きとか急に言ってくるのはやめてほしかった。
途端に集中できなくなってしまう人間だから終わってからにしてほしい。
それと、その後に少しだけでもひとりにさせてくれれば片付けることができるからそこまで待ってほしかった。
「あ、あはは、課題をやらなきゃね」
「そうだね、やってからゆっくり話そう」
目を閉じて集中だ、後の自分を楽にするためにもいまやっておくのが一番いい。
夏とかに比べたら量があるわけでもないのと、一応普段から真面目にやっているのもあって彼女の邪魔してしまうということはないから安心だ。
寧ろ今回は集中力が途切れた彼女に止められてしまったぐらいだった、いつもこの感じでできれば特に困ることにはならないだろう。
「しづちゃんのことを苦手だって言ったときのことを覚えてる?」
「ああ、話も聞かずに戻っちゃったときのことだよね」
「あれはれいが他の女の子と話すのが嫌だったからなんだよ、気づいていた?」
「え、そうだったんだ」
元々、その後はすぐに普通に話し始めて違和感があった、が、大事なところはほとんど教えてくれないのが彼女だから聞くことはしなかったんだ。
「まさのことを気に入ってくれてよかったよ、だってお友達と争いなんてしたくないからね」
「じゃあそれでまさじゃなくて僕なの?」
「はあ? さすがにそれはないよ、消去法で求めたわけではないんですけど」
僕の場合は彼女以外の異性と関わる機会が全くなくて安心できる、だからライバルの多いまさより僕を、となったのだと考えて発言したのだが、彼女はあり得ないとでも言いたげな顔でこっちを見てきているだけだった。
「れいは最近だろうけど私は昔かられいが好きだったんだから勘違いしないで」
「そっか、まさに勝てている部分があったんだね」
「そもそも他の子と自分を比べる必要なんかないよ」
こっちだって比べたところで意味がない、それどころか暗くなるだけだからやらない方がいいというのは分かっている、でも、全体的に強くないからついつい○○みたいだったらってやってしまうんだ。
しかも僕の場合はそれで出た不安を彼女とかまさにどうにかしてもらっていた、間違いなく悪いことだとしか言いようがない。
「ゆめがずっと近くにいてくれて嬉しいよ、僕は――」
「マイナス発言は禁止!」
「違うよ、僕は幸せ者だって言おうとしたんだ」
「え、あー、そ、そうなんだ」
彼女がこう言ってくれているんだから敢えて重ねたりはしない、そもそもするべきではないと考えたばかりなのにしていたら馬鹿だ。
ただ、正直遮られたことで逆に言いやすくなったから感謝しかない。
「でも、そろそろ僕の家の方に来てほしいかな」
「うん、それなられいのお家に行くけど」
「泊まることは無理してしなくていいから冬休みはできるだけ一緒に過ごそう」
したいことを優先してほしいと言いたいところだが、クリスマスから三日間はずっと一緒にいてしまったから離れるのは寂しく感じてしまう。
こういうことにならないように幼馴染でも、また、恋人関係でも気をつけなければいけなかったのに結局これだから笑えてしまう。
僕達らしいと片付けていいのかどうか……。
「ねえれい、れいはまさといたい?」
「うん、普通にいたいよ、だけど部活に田保さんにって忙しい子だからね」
「いたいなら誘ってくるよ、私だってたまには話したいと思うしね」
「ははは、素直じゃないねえ」
ちょっと落ち着いたらこっちからも誘ってみようと決めた。
というのも、最近ふたりきりで話せたのはクリスマスの夜と翌朝の短い時間だけだから寂しかったんだ。
最近できた友達というわけでもないんだからまさとの時間も大切にしたい、冬休みなら他の子のことをあまり考えなくていいのも大きいことだと言える。
「素直だよ、だってそうでもなければ好きだって言っていないでしょ?」
「じゃあまさ限定で素直じゃない子だ」
「違うよー」
彼女の中ではそういうことらしいのでこれ以上はやめておくことにしよう。
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