02話.[誘えばいいだろ]
「れい、起きてる?」
声をかけてみたけど反応がなかった、残念ながらもう寝てしまったらしい。
まさが家に来てからは全く話せていなかったからせめて遅くまでと考えていたのに結局こんなことになってしまって残念だ。
「どうやら寝てしまったみたいだな」
「……なんでまさがいるの」
「そんなの帰るのが面倒くさくなったからだ、幸い、いつでも着替えを持ってきているから困らなかったしな」
ただ、こっちだってご飯を食べさせてもらったわけだからあんまり偉そうに言える立場でもないというのが……。
「部活、どうだったの?」
「いつも通りだった、疲れるが楽しい時間だからもっと続いてほしいぞ」
「そうなんだ」
れいが部活に入らなくてよかった、もし入っていたら寂し死していたと思う。
やらなければいけないことにはしっかり集中する子だと分かっているから違和感はないものの、その間はこっちが放置されることになるから不安になることも多い。
だからなるべく一緒にいる時間を増やしていっぱい話そうとしているけど、あんまり上手くいっていないというのが現状だった。
だってすぐにふたりきりではなくなるからだ、みんなに優しくしようとするからそういうところが気に入らない。
特にいまここでのんびりとしているまさが天敵だった、れいにとっては親友の内のひとりだからどうしても優先しがちになるというか……。
「女子の友達は? 誘えばいいだろ?」
「部活に入っている子の方が仲がいいんだよ、だからなんか友達の友達という感じがして誘いづらくてね」
「ゆめにとっては俺もそれだよな」
「……認めたくないけどまさは友達だよ、あ、親友ではないけど」
「ははは、そうか、それならよかった」
やっぱりこうやって話しているとれいとも話したくなってしまう、でも、起こすのは可哀想だから仕方がなく付き合うことにした。
というのも、積極的に夜ふかしをするタイプだからこの時間には寝られないのだ、だから誰かが付き合ってくれないと暇になってしまうからこれでいい。
「ゆめはれいが好きすぎだな、れいもゆめを優先するから寂しくなるときがあるぞ」
「まさを優先するときも多いよ」
「いやいや、あなたに比べたら野郎の俺なんてとてもとても……」
○○をしてほしいと頼むと「ご飯を作らないといけないから」とか「課題をしなければいけないから」とか言われて躱されてしまう。
無茶なことを求めているわけではなく頭を撫でてほしいとかそういう簡単なことなのに後回しにされてしまうのが寂しかった。
だけどやらなければいけないことを終えた後は確かにまさが言うように完全に優先してくれているから私こそが贅沢な思考をしていたのかもしれない。
「ん……」
「ふっ、こうして俺らが喋っているのに寝られているなんてある意味すごいよな」
「早寝早起きタイプだから」
「起こすか、ゆめは共犯だからな?」
「え、ちょ――」
ちょっと待ってと言い終える前にまさが移動してれいを揺らす、そんなことをされればさすがのれいでも寝続けることはできない。
「……いま何時?」
「えっと……あ、まだ一時半だよ」
「起こすのが早いよ……」
暗いお部屋でもずっと起きていたのもあってどんな顔をしているのかが分かった、物凄く困ったような顔でこっちを見てきている。
そんなことよりもいまさらになって私がここに転んでいたのにと不満をぶつけたくなったものの、一緒のところで寝転んだところでいまさら動じたりするような子ではないから諦めた。
……当たり前のように床に敷布団を敷いて寝転んでいたまさは論外だけどね。
「ゆめ、寒くなかった?」
「うん、れいは寝相がいいから全く問題ないよ」
「それならよかった、僕のせいで風邪を引くことになったら嫌だからね」
むしろれいと一緒に入っていたことでぽかぽかしていて気持ちがよかった。
まるでお風呂に入っているような感じがしていい、何回も言ってあれだけど横にれいがいるという状態がそもそも安心できるからだ。
「というか、当たり前のように一緒に寝ているのはどうなんだ?」
「んー、ゆめに気になっている人とか好きな人がいるならやめるけど、いまはそうではないみたいだからこのままでいいかなって、……不味いかな?」
「言っておきながらあれだがまあ、ゆめがいいならあとはれい次第なんだから問題ないだろ」
私としては全く問題ないというか、自分がこうしたいからこそさせてもらっているんだから考える必要すらなかった。
仮に拒まれたとしても私のことを考えてしてくれているだけだろうからショックを受けたりはしない、が、寂しいとは感じるだろうな。
このままの距離感がいい、少なくとも遠くなってしまうことだけは避けたい。
「ほら、まさは明日も部活があるんだから早く寝なさい、ゆめも女の子なんだから夜ふかしは駄目だよ」
「うん、もう寝るよ」
「そうだな、俺も寝るわ」
ただ触れたいだけだったけどすぐに反対を向いて寝転んだれいにくっついた。
正直、これだけはちょっと嫌なところだったから直してほしかった。
「ふぁぁ~」
中途半端なところで起こされてしまったからなんか眠たかった。
僕の場合はきっちり八時間は寝ないと駄目なので、次に泊まることがあったとしても起こすのだけはやめてほしかった。
それよりまさは空腹感さえなんとかしてしまえば全く睡眠時間なんて関係ないんだなと、行動だけでそれを教えてくれている。
「大きなあくびね」
「ん? うん、ちょっと眠たくてね」
「それならいつもしているみたいに目を閉じておけばいいわ」
ああ、どうやら見られてしまっていたみたいだ。
恥ずかしいことをしていたわけではないから構わないと言えば構わないが、なんか見られていたということが分かるとそれはそれでなんかね……。
「ただ、あれは眠たさをなんとかするためにしているわけではないのでしょう?」
「うん、あれをすると意識を上手く切り替えられるんだ、一日家以外の場所で頑張るためにも必要な行為なんだよ」
「なるほどね、ずっと橋本ゆめさんのことを考えているわけではないのね」
「流石にね、一緒にいるときは優先して行動するけどさ」
本人から言われたようにあっちのクラスに行くことはないからどうしてもゆめはこっちに来ることになる。
意識していなくても見えてしまうものだから知っていてもおかしなことではない、が、ずっと考えている的な見方をされていたのはいいのかどうか分からなかった。
まだまだ授業があるという状態では授業になる度に意識を切り替えて頑張っているつもりだからだ。
これもまた他者から見たら大したことがないレベルだということなら正直、悲しくなってくるというかなんというか……。
「尾川君と橋本さんは本当は仲がいいわよね」
「うん、素直になれないだけなんだ」
大丈夫、心配はいらない。
こっちがなにかをしなくたってゆめはなんとかできてしまう存在だ。
まさが滅多なことで怒らないというのも影響していて、多分そういう相手だからこそそういう態度でいると思うんだ。
怖い相手だったらそもそも関わることすらやめている、あの子はなにに対しても強いというわけではないからそんな感じになる。
まあ、当たり前のことをなに言っているんだとツッコまれてしまいそうなのでこれ以上はやめておこう。
「ねえ、もしどっちかがどっちかのことを『好きなんだ』と言ってきたらあなたはどうする? あなたは素直に応援できる?」
「できるよ? 寧ろ知らない子と付き合われるよりも安心できるよ、それに付き合ってからも一緒にいることができるからね」
他の男の子と仲良くしているところを見て複雑な気持ちになってしまうということなら僕は離れることを選ぶかもしれないが、そういうわけでもないならこれまで通りにいさせてもらう。
とはいえ、ゆめに対してだけはしっかり気をつけて行動しなければならない。
間違いなくいまのままの距離感でいたら怒られる、仮にゆめがそのままでいいと言ってきたとしてもまさは納得しないはずだった。
「れいが珍しく女の子と話してる」
「ゆめとまさに興味があるみたいでね」
今日はまさと彼女はよく話していた、先程のあれも五十パーセントぐらいの確率で有り得そうな話だった。
知っているというのは大きいだろう、しかもいまから改めて仲を深めようとしなくていいというのも絶対にいいことだと言える。
意外とまさみたいな男の子の方が先に好きだと気づいて「実は」と相談してくるものなんだよね。
「それなられいじゃなくて私達に話しかければいいと思うけど」
「誰だっていきなりは緊張しちゃうよ、だからとりあえずはクラスメイトである僕だって決めていたんじゃないかな」
それでもとりあえずこのことはここで終わりだ、勝手に決められたくはないだろうから言わないようにするためにも必要なことだった。
結局、話しかけてきた子はこちらに挨拶をしてから戻ってしまったので、いつものように緩く会話を楽しんでおくことにした。
「私、あの子苦手」
「え、これまでも話したことがあったんだ?」
「ううん、いまのでそう感じたの」
「別に悪い子ではないから――ゆめっ?」
「戻るね、もう休み時間も終わるから」
珍しい、苦手とか嫌いとかそういうことを全く言わない子だったから驚いた。
しかも嫌な顔をしたわけでも、その状態で見ていたわけでもないのにどうしてなんだろうか?
「親友、もう時間もないが聞いてくれないか?」
「どうぞ」
「一時間前に食べたばかりなのに腹が減ったんだ……」
「君のお腹は相当のお金がないと満たせなさそうだね」
新陳代謝がいいからだろうから悪く考えなくていいだろう。
というか多分、そんなことをすればするほどお腹が空くだろうからやめた方がいいと言うしかない。
「頑張るわ」
「うん、一緒に頑張ろう」
対策として複数個お弁当を持ってきているみたいだから我慢だ。
お腹を満たすことも活動することも好きだからきっとそういうのも楽しんでいるはずだった。
「温かくて美味しいわ」
「冬はやっぱり温かい飲み物がいいよね」
今日は何故か田保さんもここにいた。
ちなみにここには拗ねているゆめもいるが、苦手だと言っていたから積極的に話しかけることはしていない。
この時間でどこがどう苦手なのか分かればいいと考えている。
「私、尾川君に興味があるの」
「そうなの?」
「ええ。でも、平日も休日も部活があるからなかなか一緒にいられないでしょう? だからここにいれば寄ってくれるかもしれないという考えで行動しているの」
それなら休み時間に話しかけるのが一番だと感じた。
お腹がすぐに空くだけで突っ伏して休んでしまうというわけでもないし、話しかけられたら必ず相手をしようとする子だから、うん、そうするべきだ。
「寄ってと頼んでおこうか? 流石にまさも毎日ここに来るわけじゃないからさ」
「それはしなくていいわ、尾川君だって休みたいだろうから」
本人がそれでいいならこっちが動くことはしない。
「あなた達は幼馴染なの?」
「うん、小さい頃から一緒にいるからね、ちなみにまさとは小学四年生のときに出会ったんだ」
「あ、そうだったのね」
まあ、そこからずっと続いているわけだから似たようなものだ、なにかがあったりしなければこのままずっとこの先も一緒にいられると思う。
「ちなみに田保さんはまさのどういうところに興味を抱いたの?」
「常にお腹が空いているところね、私はご飯を作るのが好きだから本人に許可を貰えたら作ろうと考えているの」
「お腹のことを考えたらいいだろうけど、まさは受け入れないだろうなあ」
「家族以外の人間に作ってもらうとなったら費用とか気になるでしょうしね」
と、分かっていても作りたいらしく「一回だけでもいいからやらせてもらいたいわね」と言った。
美味しいご飯なら何度でも食べたくなるのが人間で、もしかしたらそれ次第では求めるようなまさも見られる可能性はある。
ただ、なんか頑張ってと言いづらいのも事実だった。
仮に横に体操座りで座っている彼女の中に特別な気持ちがあった場合には……。
「大丈夫、まさは食べることが好きだからきっと食べてくれるよ」
お……っと、彼女の方がそう言うのか。
自分の中にそういう気持ちがあったとしても我慢してしまいそうな危うさがある。
田保さんと彼女だったら当然彼女の方が大切だから応援したくなるわけで、なにか我慢しているのならやめてほしいと言いたくなるが……。
「本当に一回だけでいいの、それぐらいだったら大丈夫かしら?」
「大丈夫、ただ、それなら普通に仲良くなった方がいい」
「そうね、知らない女からそう言われても困るわよね」
ふたりはそれで終わらせて違う話を始めた。
苦手と言っていた割には自分からどんどんと話しかけていてよく分からなくなる。
現時点でも苦手だということならすごいとしか言いようがない。
「さてと、矛盾しているけれど今日はもう帰るわ、だってこのままいたら今度はあなたに迷惑をかけてしまうから」
「気にしなくていいよ、ゆめだって田保さんと話したいって顔をしているよ?」
「いえ、焦っても仕方がないからゆっくりやっていくわ」
ああ、本当に荷物を持って出ていってしまった。
「ふぅ、慣れない子と話すのは疲れる」
「女の子ってすごいね、それでも上手く話せてしまうんだから」
「ああいうことはあんまりない方がいい、回数が増えればきっと失敗するから」
「学校で近づいてくることはあっても家に来ることはないから安心すればいいよ」
まさと仲良くなろうと意識して行動するだろうから学校でも多分そういう時間はあんまりないと思う。
近づいてもらえるような魅力がないとか卑下しているわけではなくて、他者に興味を抱いている人間がそれ以外の人間といるはずがないという風に考えているだけだ。
これは偏見かもしれないから合っているのかどうかは分からないが。
「それにれいのお家にいるならふたりきりがいい」
「それも安心していいよ、だってなにかをしなくても両親が帰ってくるまではふたりきりだからね」
「まさがいてもこうして甘えることができなくなるからね」
「甘えたいならすればいいでしょ? 僕は拒まないよ?」
「……甘える側は恥ずかしい」
だからってこっちが甘えてしまうのは違う気がするからふたりきりのときだけでいいねと言っておいた。
実はこういう風に甘えてくれないときは寂しくなることもあるんだ。
だから普段拒まないのは当たり前のことで、彼女のことを考えないのであればこうしてずっと甘えてくれるのが一番だった。
「いつもありがとう、ゆめが側にいてくれるだけでやる気が出てくるから本当にありがたいよ」
「なんで急に……? なんか怖い」
「言いたくなったんだ、悪口を言っているわけではないからいいでしょ?」
が、うんとか頷いてくれたりとかしてくれるわけではなく、ただ静かにこっちの足の上で座っているだけの彼女。
それで不安になってしまったとかそういうことはないものの、って、思っていなくても頷いてほしいと考えてしまうのは結局そういうことなんだろうか?
「あの子はまさにとって特別になるかもね」
「なにがあるのか、どうなるのかなんて分からないからね、そうなっても全く不思議なことではないかな」
仲良くなってから言っても遅いんだ、きっと彼女ならそうなる前に本音を話してくれるはずだ。
そうしたら僕は彼女のために動く、いやほら、先程のあれはあくまで僕からしたらという話だから仕方がない。
彼女が幸せになれるのならそれでいい、というか、色々と怖いことだから応援する側の方が楽だからね。
「私も頑張る」
「うん、僕も頑張るよ」
頑張っていればきっといつか必ずいい方へと傾いていく。
僕はそう信じて前へと進んでいくだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます